錦です。かなり大きなニュースです。
Intelは新しいビジネスモデル「IDM 2.0」の中で外部で設計された半導体の受託製造を開始することを発表しました。
IDM
IDMは「Integrated Device Manufacturer」の略であり「開発・製造・製造を一貫して行うビジネスモデル」を指しています。Intelは、同社で開発・販売しているほぼすべての半導体を、自社内で製造しています。一方、AppleやAMD、NVIDIAやQualcommといった半導体メーカーはTSMCやSamsungなどの外部ファウンダリと呼ばれる企業に製造を委託しています。こういった製造能力を持たない半導体企業を「ファブレス企業」、製造の部分を担う企業を「ファウンドリ企業」ということがあります。
IDMのメリットは、自社内ですべてを完結できるので手間やコストが少ないというものがあります。そのほか、外部の環境や、外部の製品の需要に左右されないというものがあります。ファブレス企業は、ファウンドリ企業の製造ラインをいわば「借りる」状態になるので、例えば現在のように世界的な半導体の不足に陥ったとき、利益を生みやすい企業に製造ラインを優先することがあります。そうなると需要が不安定になります。IDMにはその心配がありません。
挙げる必要はないかもですが、デメリットは自社のプロセスルールの開発が止まればすべてが止まるという部分ですかね。
大手の半導体メーカーでIDMのビジネスモデルを採っているのはIntelぐらいでありその強みを活かしたいという考えのようです。
IDM 2.0
そんなIDMのビジネスモデルを更に発展させたのが「IDM 2.0」になる模様。IntelはIDM 2.0の3つの柱を公開しています。
Intel事業部への製造サービスというのは、今のIDMと同じで「Intelの製品を製造する」ということです。なんか他人行儀に感じるのはIntel事業部と製造部門が区別されているからです。
外部ファウンダリとの提携は、すでに一部のCPUや通信関連などのチップなどでTSMCなどに委託されており、TSMC内でもかなり有力な取引先になっています(確か5位か6位だった気がする)。おそらくほぼ同時に投稿されているエントリでMetor Lakeの話をシていると思いますが、Meteor Lakeで採用されるタイルデザインでは、コンピュートタイルがIntel 7nmで製造され、その他のダイはその他のプロセスあるいはTSMCなどに委託される可能性があると発表されました。
本題は3つ目の「Intel Foundry Service」ですね。これは、Intelがファウンダリになるということです。つまり、ファブレス企業などからの受託製造をIntelが行うということになります。現在大手のファウンダリ企業は台湾を中心としたアジア圏に固まっています。TSMCは台湾の他に米国と日本に進出する計画を進めていますが、それでも半導体の製造はアジアに依存しています。
Intelは欧米の政府から半導体需要逼迫などで懸念の声が上がっているとしています。Intelは欧米に工場を持っており、その懸念の声に応えられるとしています。Engadgetによると、IntelのCEO Gelsinger氏は現在Amazon、Cisco、IBM、Microsoft、Qualcomm、Googleなどのパートナーと協力していると述べたとのこと。記者からの質問で、Appleのビジネスにも追求していました。これはすなわちIntelは将来的にApple SiliconのIntelでの製造を望んでいるということになります。
IntelはIDM 2.0を実現するためにアメリカ・アリゾナ州に新たな工場を2つ建設することを明らかにしました。このファブではEUVに対応したプロセスが導入され、7nm以降のプロセスの工場になる見込みです。
Intel Foundry Serviceを利用する顧客は、Intelが保有しているx86 CPU・GPU・アクセラレータ・エンジンなどの知的財産を利用できるようになっており、それを利用しないArmやRISCなどの知的財産も利用できるとしています。MicrosoftのCEO Satya Nadella氏はこの会見でメッセージを送っており、このサービスを利用することでMicrosoftがIntelの技術を利用してMSの自社製品向けのCPUを設計し、それをIntel Foundry Serviceで製造する事が可能になるのこと。
これはすなわち、Intelが設計しなくとも、クラウド事業者やBTO/CTOパソコンメーカーなどがIntelの技術を活用し、自前のプロセッサを設計してIntelに製造を委託する事ができるということです。Apple M1以降、「自前プロセッサ」への関心が高まっているこの業界ですが、そこで需要が落ちる可能性のあるIntelが新しい需要を喚起しようとしているのがわかります。とても面白いサービスですね。