錦です。
Appleは、昨夜開催されたWWDCでApple独自シリコンをMacに採用することを発表しました。
これは、以前から噂されていたApple Aチップ搭載のMacの存在を開発者に公表したということになります。
Apple独自シリコン
Apple独自シリコンは、予測通りiPhoneやiPadに搭載されるApple Aチップがベースになっています。具体的な製品は登場しませんでしたが、開発者が実際に製品が発売される前に検証や開発を行うことができる、Developer Transition Kit(DTK サンプル機)が明らかにされました。DTKはMac miniの筐体に、Apple独自シリコンベースのシステムを組み込んだものになっており、SoCにはiPad Pro 第4世代に搭載されているApple A12Z Bionicが採用されています。
ソフトウェアでは、同時に発表されたmacOS 11.0 Big Surが対応しています。
特徴
特徴としては、このApple独自シリコンがARMになっていることです。これにより、iPhoneやiPadで実現している、高い電力効率を発揮します。Apple Aシリーズの特徴として、コア数やクロックに対する性能が、競合他社のものよりも高くなっており、IntelのCPUに比べて全体的に消費電力が低いことが挙げられます。
基本的にモバイルベースで開発されたSoCをベースにしたものをベースにしてMacに搭載するので、劇的にバッテリー持ちが良くなるはずです。その上、iPhoneなどで成熟された
そして、アーキテクチャがApple Aチップを搭載する iPhone/iPad/AppleTV や、Apple Aチップをベースとするチップを搭載するApple Watchなどと共通化されることにより、よりAppleのエコシステム全体に対する開発が用意になります。ということで、次はアプリの移行などのお話をします。
移行
Rosetta 2
Appleは2006年にPowerPCからIntel CPUに移行することを経験しています。そのときに使われたRosettaが、Intel CPUからARMに移行するためのものとなりRosetta 2として戻ってきます。
Rosetta 2は、よりパワフルなコード変換を実現します。Rosetta 2では、このような特徴があります。
- 既存のMacアプリをARMベースシステムで動作するコードに書き換え
- 性能劣化はほぼなし
- インストール時に変換が行われるように
- 実行中のコード変換にも対応し、複雑なアプリや、プラグインも対応
- JITやJavaのコード変換にも対応
ライトエフェクトや、1080pの3D CGの処理実行中でも同時コード変換も行うことができ、問題なくスムーズに行うことができます。
その上、iPhoneやiPadアプリもApple独自シリコンベースのMac上で問題なく動作させることができるようになり、Mac App StoreからiPhone・iPad向けアプリをMacに導入できるようになるようです。
Virtualization
また、仮想化システム「Virtualization」が追加され、LinuxやDockerのようなシステムも動作するようになります。
Universal 2
そして、Universal 2。Universal 2のバイナリを使うと、既存のアプリでも、IntelベースMacでも、Apple独自シリコンベースのMacでも、一つのバイナリで動作するアプリの開発を行うことが可能です。つまり、Mac向けとしたときに、ARM Mac向けとIntel Mac向けという2つの選択肢を用意する必要はなく、基本的に一つのアプリでIntelベースMacも、Apple独自シリコンMacもカバーできます。
Universal 2を使って開発されているソフトウェアは、macOS Big Surに付属する純正アプリの他、Final Cut Pro XやLogic Pro XといったAppleのプロアプリケーションや、PagesやiMovie、Garage BandといったiWorkアプリケーションもネイティブで動作します。サードパーティ製では、MicrosoftのOffice for MacやAdobeのCreative Cloudがこれに対応している他、Unityなどのソフトウェアも対応を明らかにしています。
Macでの性能
では、実際にMac上での性能はどのようなものになるのでしょうか。WWDCの基調講演では、DTKと同じく、Apple A12Z Bionicを搭載したサンプル機で、Final Cut Pro Xを使用したプレビューが行われました。
Appleによると、4K ProResを3ストリーム同時に処理することができ、フレーム落ちなどの現象もみられません(実機での検証は必要ですが、ここで嘘をついてもAppleには意味がありません)。
Rosettaで変換されたアプリも性能劣化はほぼないようで、ユーザーは気にせずにアプリを実行できます。
実際の製品のリリース
実際の製品は、今年後半に登場する予定で、macOS Big Surで初めてARMをサポートします。そのため、開発者に配布されるDTKについても、macOS Big SurのDeveloper Betaを搭載しています。
Appleは今後2年間ですべてのMacでApple独自シリコンに移行することを計画しており、それまではIntelベースのMacも投入されるとのこと。そして、Big Sur以降でもIntelベースMacのサポートは継続的に行われます。
WWDCの基調講演は以下のサイトからご覧になれます。
さて、ついに発表されたARM Mac。製品ではありませんが、移行するというそのことが明らかにされました。
今回の内容、わかりにくいかもと思いましたので、かんたんにAppleFan Mediaでより大雑把なものを執筆しておきました。よろしければ御覧ください。
Apple、Macの独自シリコンへの移行を発表 今年後半に最初の製品を発売へ | AppleFan Media
今回の、Appleに感激した点というのは、おそらくソフトウェアとハードウェアの統合。これに尽きるでしょう。Appleは世界でもまれに見る、ハードとソフト、両方を自分で作ることができる企業です。ARM Macはその利点を大いに活かすための選択肢とも言えます。
現在、Appleのすべてのソフトウェアは基本的にMac OS Xをベースに開発されていますが、ハードウェアは、Macと一部のApple TVがx86ベース、iPhoneやiPadなどの他のデバイスがARMベースになっています。基本的に、システムが全く違うので、統合することは困難とも言えます。
そこで昨年登場したのがProject Catalyst。Project Catalystとは、iPadのアプリを最小の変換のみでMacに対応させることができるというものです。これは実際にMac向けのTwitterアプリで採用され注目を浴びました。Project Catalystは、macOS Big Surでも強化されましたが、正直この強化はIntel Mac向けのものであることがわかります。そもそも、Apple独自シリコンのMacにProject Catalystは必要ありません。だってそのままアプリが動くのですから。
アーキテクチャがARMで統一させると、アプリの相互互換が有効になり、変換なし、あるいは最小限の変換のみでiPhone iPad Macで同じアプリを使うことができるようになります。これは、ユーザーにとってみても、わざわざiPhoneとMacの両方を用意しなくとも、MacのみだけでiPhoneアプリを必要としていた作業がおおかたできてしまうという状態になります。現在、iPhoneやiPadでのアプリ市場は非常に巨大で、何十兆ドルレベルの市場になっています。その巨大な市場のアプリがMacでも利用になること。物理キーやマウス操作などをネイティブに備え持ったMacで使えるようになること。これはもはや驚異です。
開発者にとって、今回の発表は好意的かどうかはわかりません。はじめの労力が継続に繋がりますが、ARMに対応させることが困難な場面もあると思います。ただし、MacとiPad、iPhoneのアプリを共通の仕様で、同じように開発できたならば、かなり開発が容易になるような気がします。
BootCampについて。BootCampについての発表は有りませんでした。おそらくARM Macには搭載されていないものだと思います。現在、Windowsは、Qualcomm Snapdragonに向けてWindows 10 ARMを提供しています。一応、Apple独自シリコンもARMベースなので、BootCampで動かすならばこのWindows 10 ARMになるのでしょうが、Microsoftの文書では、Qualcommプロセッサのみのサポートになっており、未だにMicrosoft・Appleからの何かしらの発表は有りません。
Windows 10 ARMという形自体はあるので、Macに対応させること自体は容易だと思いますが(そもそもライセンスはどうするのかなどの問題はありますが)、これについては今暫く待つ必要がありそうですね。
以上です。