錦です。
今夜午前3時からは待望のApple Event「One more thing.」が開催されます。そこで発表されるであろうApple SiliconをNishiki-Hubでは、存在が明らかにされたWWDC 20から独自目線で解析してきました。
Apple Siliconとはなにか
Apple Siliconという名称がAppleの公式で使われたのはおそらくWWDC 20が初めてだと思います。それ以前にも使われていたらごめんなさい。
ただ、Apple Silicon自体は2010年から存在しています。Apple A4は実質的にApple Siliconの今の形となった最初のApple独自シリコンです。iPhone 4に初めて搭載されました。それ以降、iPhoneとiPadにApple Siliconが集中的に搭載されていきました。そして、Apple SiliconはiPhoneやiPadを超え、周辺機器に対しても独自チップを搭載していきました。現段階で、Apple WatchやApple TV、Home PodにもApple独自チップが搭載されており、2017年に登場したAirPodsにも搭載されています。
「Apple Silicon」を「Apple独自シリコン」と考えるのであれば、10年間の積み重ねがあり実際そうして着実に進化してきたことがわかります。Appleとしては、iPhoneやiPadの成功の要因の一つである、ソフトとハードの連携をどうにか自社のエコシステム全てに組み込みたいという思惑があると思います。これは決してAppleだけに得があるわけではなく、実際に開発者やユーザーにも利益をもたらす事になってきます。これまで、Appleのエコシステムの中で唯一Apple独自チップベースどころかARMベースでもなく、IntelベースだったMacはiPhoneとiPad、Apple Watch、Apple TVというエコシステムに組み込まれないものでした。これら4つのプラットフォームではこれまでアプリのパッケージを共有することが可能で、実際、一つのiPhoneアプリがiPad、Apple Watch、Apple TVのサポートを包括しているということはよくありますし、App Storeに無数に存在しています。ここにMacを組み込めれば、一つのアプリでiPhoneやiPad、Apple TV、Apple Watch、そしてMacに対応する事ができます。iPhoneのアプリ開発者の中でMacに参入したいと思っている人は少なからずいると思うので、そういう人にとってすれば千載一遇のチャンスになります。
Appleとしても、チップの供給が自分自身の判断でよくなるため、Intelでここ数年発生している供給不足・開発遅延のリスクは少なくなります。ここで考えられる可能性は、iPhoneやApple Watch同様、一部のMacで1年に1回、決まった次期にリリースされことですね。iPhoneは1年毎にチップのアップデートが行われるのに対して、MacリリースはIntelのCPUのロンチ次第だったので、今後はAppleの好きなタイミングで製品をリリースすることができるようになります。
バリエーション
さて、Apple Siliconに問題があるとすれば、バリエーションの問題も今後どうなるか見極めたいところです。
Macのラインナップはそれぞれ違うシリーズのIntel CPUを搭載しているという特徴があります。MacBook AirにはCore Yが、MacBook Pro 13"にはCore Uが、MacBook Pro 16"にはCore Hが、iMacにはCore Sが、iMac ProにはXeon W-2000シリーズが、Mac ProにはXeon W-3000シリーズがそれぞれ搭載されています。Appleは一つの世代で実質2つのバリエーションしかもっていません。Apple A14とApple A14Xです。Apple A12には例外的にApple A12Zがありますが。
Apple Aシリーズの特徴として、同じチップをいろんな製品に使うという物がありました。例えば、iPadなんかは特に、数世代前のチップを採用することにより低価格化を実現している部分もあります。同じ世代のチップを積んでいても、互いに競合になることは少なく、それぞれにハードウェア的な特徴があり、それこそがApple Aチップのバリエーションが少なくても良かった所以でもあると思います。しかし、Macはハードウェア的な違いというのが少なく、MacBook 3シリーズや、iMacとiMac Proを見ればわかるように、性能でそれを分けていることが結構多いです。特に、MacBook Pro 13インチとMacBook Airは性能差を除いた相違点がなさすぎます。そこでバリエーションです。
Intel CPUにはある程度目的を持ったバリエーションがあります。そして、Macもそれに沿ってモデルが展開されています。Apple Siliconにはそのバリエーションがあまりないというのは前述のとおりです。現段階で登場しているリークではApple A14TというApple A14Xよりももう一個上のバリエーションが存在しているとされていますが、それでも3つです。そもそも、アーキテクチャ自体はApple A14ベースなので、ここからバリエーションを作るとすれば、消費電力やクロックに差をつけたり、コアの配置を変えたりすることでバリエーションを作っていくのでしょうが、金がかかりまくる気がします。
そして、Apple SiliconがCPUではなくSoCであるという部分にも注目せねばなりません。Apple A14を例に挙げましょう。Apple A14には6コアのCPUとともに4コアのGPUも搭載されています。ここまではよくあるCPUスタイルですが、それに加えてニューラルエンジンやマシンラーニングアクセラレータ、ISP(画像信号プロセッサ)などのアクセラレータの類が内蔵されている部分もあります。普通のデバイスではGPUが処理する部分がそれ専用コアとして割り振られており、これらのコア数も用途ごとに変えていくことができればかなり細かく様々な性能を調整することができます。例えば、プロ用途には使わないという前提なら、MacBook Airではニューラルエンジン部分やISPを弱くして、MacBook Proではその部分を強くするなんていうバリエーションをもたせることもできなくはないはずです。
Apple SiliconはAppleが設計するので、よりAppleがチューニングしやすく、その製品のターゲット層に特化したバリエーションが作れるという部分ではかなり進化するとおもいます。
CPU性能はもはや問題ではない
CPUの性能はもはや問題ではありません。先日投稿したとおり、クロックあたりのシングルスレッドの性能は、Intelに比べて2倍以上の性能を持っており、マルチスレッド性能も対してIntelに比べて弱いという印象はありません。遜色ない印象だし、何なら赤なり性能がいいと見られます。
ただ、問題はGPU。GPUはいろいろな技術の結晶であり、そのノウハウや技術というのはある種、歴史の積み立てで有ることから、いくらAppleとはいえGPUをAMDの水準に持っていくのは難しいのではないかと思っています。例えば、コアを増やしたときのコア間の通信。CPUのように少数のコアではなく、GPUは数千というコアで通信を行うため、コア間の通信は遅延が発生したりして性能が出にくい欠点があります。AMDやNVIDIAはそれを独自の方法でごまかしたり、メモリの速度を上げてそれを補ったりしています。Appleにそれができるのでしょうか。
前述の通り、Apple Siliconの特徴としてGPUで処理すべきものが、いろんなコアに分かれているという部分があり、これはApple Siliconの強みだという話をしました。これは実質的にTensorコアのようなものがCPUに直付けされているようなものになっています。なので、GPUはGPUの処理を行うことができるので、dGPUにもなりうるのかどうかがきになります。
個人的には、AppleのdGPUは少なくともAMD RDNA 2 GPUよりも性能は出ないはずなのでしばらくはAMD GPUは残り続ける気がします。特にMac Proについては、カスタムで今後もApple SiliconのMPXモジュールが登場する可能性もありますが、Radeon Pro W6900Xみたいなカードが出てくるのではないかと思っています。
イベントはこの後すぐ!見逃さないようにしましょう!