錦です。
Intelのイベント「Intel Vision」が幕を閉じました。面白いものも多く発表され、Nishiki-Hubでは2つほど記事にしましたが、今回の記事ではそれらをすべて網羅しつつ、イベントで発表されたもの、チラ見せされたものをまとめていきたいと思います。
イベントで発表された順番には基づいてはいないほか、発表されたけど錦的にちょっといいかなってのは省いていますのでご了承を。基本的にCPUとGPU、あとブロックチェーン向けプロセッサ周りの話かな。
CPU
Alder Lake-HX
今回注目された発表の名感は、Alder Lake-HXがあります。第12世代のモバイル向けプロセッサとしては最上位となるモデルですね。
55W帯のCPUで、モバイル向けではこのグレードのCPUは私が覚えている限りでは存在しなかったはずです。
これについては詳しく記事にしているのでよければ御覧ください。
Intel、第12世代55W帯モバイル向け「Alder Lake-HX」を正式発表 〜 モバイルワークステーションやハイエンドゲーミングノートに採用 - Nishiki-Hub
このプロセッサはハイエンドのゲーミングラップトップ、ハイエンドモバイルワークステーション向けのCPUというものになっています。Alder Lakeは、Intelの公称で製品のラインナップとして大きく3つのダイに分ける事ができます。実際にはもうひとつ4つのダイになるわけですが。
Pコア | Eコア | GPU EU | 採用 | |
---|---|---|---|---|
U | 2 | 8 | 96 | U9/U15 |
P | 6 | 8 | 96 | P28/H45 |
H0 | 6 | 0 | 32 | S |
C0 | 8 | 8 | 32 | S/HX |
この4つのダイのうち、2つがモバイル向け、2つがデスクトップ向けになるのですが、Alder Lake-HXはモバイル向けにもかかわらずデスクトップ向けと同じ台を採用しています。具体的には、Core i5-12600KF以上のダイと同じものになっています。
これによりコア数が増え、モバイル向けのAlder Lakeは既存の最上位の12900Hであっても6P8E20Tにとどまっていましたが、今回の最上位12900HXではデスクトップ向けと同様の8P8E24Tとなります。
ただし、iGPUのEU数はデスクトップ向けダイでは少なかったので、32 EUまで減少しています。これは、Alder Lake-HXがGeForceやRadeon、ArcといったdGPUと併用することを前提にしているためです。
なお、このAlder Lake-HXをもって、昨年10月から投入されていた第12世代Coreの製品の拡充は終了する旨の発言がありました。
具体的な性能などは先述の記事をご覧ください。
Meteor Lake
Meteor LakeはAlder Lakeの後継のRaptor Lakeの更に後継、世代でいうと第14世代になる見込みのCPUです。
Meteor LakeではRaptor Lakeまで採用されるモノリシックダイから変わり、 タイルとIntelでは呼んでいるマルチチップレット構造のような感じになります。ただし、パッケージングには2.5Dあるいは3Dパッケージング技術が採用されます。具体的には、CPUタイル・GPUタイル・I/Oタイル・SoCタイルがそれぞれ別々に独立し、それを一つのパッケージに実装します。
タイル構造の利点としては、各タイルで製造プロセスを変更する事ができ、Meteor LakeではCPUタイルはIntelのファブで製造するものの、GPUタイルはTSMC(N3)で製造される見込みです。
Visionでは、Meteor Lakeが展示。おそらくジャーナリスト向けに間近で見られる機会が設けられるのは、後述のPonte Vecchio・Sapphire Rapidsを含めて初めて何じゃないかな。
なお、パッケージの写真はPC Watchで掲載されています。
Meteor Lakeは、Intelのロードマップの中でも非常に重要なラインナップとして位置づけられているようで、その存在が明かされたのは昨年の春のこと。この時点ではまだRaptor Lakeの存在すら明かされていなかったため、Intelが力を入れている世代であることがわかります。
Intelは既に数世代先までの計画を表明しており、ダイの構造に数回の変革をもたらします。一回目は、Alder Lakeで採用されたハイブリッド構造、そして二回目はMeteor Lakeのタイル構造となります。タイル構造は少なくともMeteor Lakeとその後継であるArrow Lakeが採用します。
さらにArrow Lakeの後継となるLunar Lakeもその存在が公式に明らかになっていますが、Lunar Lakeはまだ「高性能 超省電力」を目標にするということ以外明かされていません。
少なくとも今後数年はIntelの敵になるのはAMDとAppleになるようで、Alder Lake-HXといいMeteor Lakeといい、M1 Macが登場してからというもの、IntelはAppleを意識した発表を行っている印象があります。
Sapphire Rapids
Sapphire Rapidsは第4世代スケーラブルプロセッサです。Ice Lake-SPやCooper Lake-SPの後継となり、Alder Lakeと同世代になります。ただし、Alder LakeのようにGolden CoveとGracemontを組み合わせたIntel Hybrid Technologyは採用されず、Golden Coveのみで構成されます。そのため、AVX-512を含むGolden Coveの全機能を利用できます。
イベントでは、Sapphire Rapidsのパッケージが展示されました。Sapphire Rapidsは前述のMeteor Lakeと同様にタイル構造を採用します。ただし、登場時期としてはSapphire Rapidsのほうが先行するので、Intel CPUで初めてタイル構造を採用するのはSapphire Rapidsとなります。
Sapphire Rapidsでは4個のタイルが1パッケージに搭載されます。まだ、1つのタイルに何コア搭載されるかなどの情報は公式に明らかになっているわけではありませんが、リークなどでは15コアと言われており、そのうち各タイル1コアずつ無効化された14x4の56コア112スレッドの製品があることがほぼ確実視されています。
AMDはEPYCで8コアのチップレットを8つ搭載して64コアを実現していますが、Intelはより少ないダイで多コアを実現することになります。ただ、それに伴ってやはりダイ自体は大きくなってしまうので、製造上どっちのほうがいいってのは決め難いですね・・・。
ちなみに、Sapphire Rapidsは、HBM2メモリを実装するモデルがあり、それも展示されていたそうです。写真はMeteor Lake同様、PC Watchにて掲載されています。
Sapphire Rapidsはこのイベントが開催された5月10日から出荷が開始されました。まだ詳細な製品仕様は発表されていません。
GPU
Arctic Sound M
Arctic Sound MはGPUで、IntelのdGPUとしては初めてのクラウド・ゲームセンター向けのGPUです。Intel Arcと同じダイを採用しアーキテクチャはAlchemist。このGPUはXe-HPGベースであり、今後登場するサーバー向けGPU「Xe-HP」ベースでは更に大規模になる見込みです。
Intel、クラウド・データセンター向けGPU「Arctic Sound M」の存在を発表 - Nishiki-Hub
これは、記事以上の換装が今のところないというのが、正直なところ。
ただ、基本的には小規模から中規模を想定した設計にはなっているみたいで、モバイル向けにも使用されるダイで、30以上のフルHD動画ストリームが提供できる他、40ストリームのゲームも提供できるという、中規模サービスにも用いられます。もちろんGPUを多数並列させることもできますから、これを組み合わせれば大規模な使い方もできるはずです。
Ponte Vecchio
VisionではPonte Vecchio GPUの展示が行われました。この製品はコンシューマ向けではなく、主にHPCなど研究用途に用いられるGPUです。具体的な競合相手はNVIDIA H100となる見通し。Intel初のHPC向けGPUであり、Xe-HPCベースのGPUです(Xeon Phi見たくGPGPUと競合するってよりかはマジモンのGPGPU)。
この製品もタイル構造を採用します。その個数なんと47。HBMメモリを搭載するなどハイエンドな仕様になっています。
Intel初のHPC向けGPU。ただ、IntelはもとからHPC用途ではXeonやXeon Phiといった製品をもとにプラットフォーム自体は存在しているので、NVIDIAが占めている市場でも、割とその力を発揮できそうな気がします。
アクセラレータ
アクセラレータについては私自身追いかけ始めるのが最近だったので詳しくはないので間違えてたらすみません。
深層学習向け「Habana Gaudi2」
Intelは過去にディープラーニング(深層学習)向けのアクセラレータを開発していたHabana Labsを買収しました。そのHabanaの製品「Gaudi」の後継となるのが今回発表された「Gaudi2」です。Gaudiは学習用のアクセラレータで、Gaudi2も同様です。
製造プロセスが16nmから7nmに微細化されたことにより、ダイサイズが変わらずとも密度を向上させることができました。内蔵のコンピュートエンジンの性能は8TPCから24TPCと3倍の性能向上がみられました。
性能面では、NVIDIA A100よりBERTのトレーニングのスループットが2倍程度高速になるとのことです。
機能面でも拡充が図られており、FP8のデータ精度演算に新たに対応しました。
また、搭載されるメモリ・キャッシュも強化され、24MBだったキャッシュは48MBに、32GB HBM2だったメモリは96GB HBM2eとなり帯域は2.5TB/sまで向上。
I/Oと電源面では、24本の100Gbイーサネットに対応し、TDPは600Wとなっっています。
Habana Labsは、Supermicroと提携して、Supermicro Gaudi2 Training Serverを市場に投入したそうです。
推論向け「Greco」
そしてHabanaのもうひとつの製品、推論用の「Goya」の後継となるのは「Greco」です。
Grecoでも微細化が行われ7nmになります。
キャッシュ・メモリ面では、16GB DDR4だったのが16GB LPDDR5となり、帯域が40GB/sから204GB/sに大幅に向上。機能面でも、新たに対応するデータ精度としてBF16、FP16、INT4に対応します。
電力効率も大幅に向上し、200W TDPから75W TDPまで大幅に省電力化しました。
NIC(IPU)
とりあえずIntelはIPUという言葉の意味を一つに絞ったほうがいい。
というのは置いといて、昨年8月、Intelは新しい「Infrastructure Processing Unit」(IPU)という構想を明らかにしました。これはIntelのSmart NICを置き換える新しいNICの構想です。NICとは、LANカードなど、システムやデータセンター等においてネットワークの伝送を行う部分で、Smart NICはそれにCPUが乗っています。NVIDIAはこれをDPUと呼んでます。
具体的に、IPUの構想ではIPUにCPUを統合し、ネットワークの肥大化により増大するネットワーク関係の処理を、メインのCPUからIPUのCPUに移し、メインCPUを開放する(つまり、ネットワーク周りの処理をすべてIPUに投げてしまって、メインCPUは仮想デバイス側の処理に専念する)というものになっています。
IPUはあくまで大枠であり、IPUとしての半導体があるわけではなく、CPUとFPGAなどのコンビによって生まれる製品をIPUと位置づけています。
今回発表された「Hot Springs Canyon」は、FPGAとXeonプロセッサを搭載するIPUです。現行のOak Springs Canyonの後継となります。
そしてもうひとつ「Mount Morgan」は、Arm Neoverse CPUとメモリコントローラ、イーサネットなどを搭載したSoCの製品で、現行のMount Evansの後継となります。
これらの製品はすべて400GbのMACを搭載し、更に高度なイーサネットネットワークと組み合わせることが可能です。
スパコン「Aurora」
現在、世界最速のスーパーコンピューターは日本の「富岳」ですが、その王座を狙うスパコンは結構計画されています。その一つが米アルゴンヌ国立研究所とIntelが共同開発しているAuroraです。
Auroraは2基の「Sapphire Rapids」と6基の「Ponte Vecchio」を搭載したブレードサーバーを多数搭載する事によってexaFLOPS級の性能を持つスパコンになります。これを9000以上組み合わせるらしいです。
システムメモリは10PB以上になり、システム全体としては2EFLOPSの性能を実現します(というかこのスパコン計画変えすぎで、エクサには届かないって話じゃなかったっけ)。
ハードウェアの製造はHPEが担当し、チップとソフトウェア自体はIntelが担当するみたいですね。
来年も開催
Intel Visionは「Intel ON」として開催されるイベントの片方として、秋の「Intel Innovation」とともにIntelの重要なイベントとなります。来年も開催することが発表されており、具体的な情報は今年秋に公開されるそうです。
関連リンク
以下、参考にさせていただいた記事。