錦です。
昨夜、Lakefieldが発表されたとお伝えしましたが、今回は、Lakefieldの中身を掘り下げて見たいと思います。
Lakefield
Lakefieldは、昨夜リリースされた、IntelのエントリレベルのCPUです。基本的にモバイル(折りたたみデバイスやタブレットなど)向けというもので、冷却機構が弱いデバイスでも問題なく利用できるというのがあります。簡単に言うと、昔のAtomの流れをくんでいるデバイスです。
現状、IntelのコンシューマーCPUにはCore系統とAtom系統の2つがあります。この2つの大きな違いは、省電力を取るか、性能を取るかですが、Lakefieldはこの内、省電力に特化されたAtom系統のCPUに分類されます。しかし、LakefieldがこれまでのAtom系統のCPUと違う点として、Core系統のコアも使っているという点があります。前世代Gemini Lakeの後継となるコアは、Tremontですが、LakefieldではTremontに加えてIce Lakeに採用されているコアSunny Coveも使われています。これが所以で、Lakefieldは、5コア5スレッドという、奇妙なコア仕様になっています。
Lakefieldは、FoverosというIntelの3Dパッケージング技術が使われています。これは、複数のチップや機構を重ねることにより、サイズを小さくするパッケージ技術で、TremontとSunny Cove、iGPUなどを一つに、コンパクトにまとめることができます。これは、最終的に基盤のサイズの縮小化にもつながるので、Intelのこの機構が今後あらゆるコンパクトデバイスに採用されていくことが期待されます。
進化した省電力
Intelの省電力CPUとしてのライバルは、紛れもなくARM系のデバイスで、特にSnapdragonが最大のライバルです。Snapdragonの戦場は紛れもなくスマートフォンの分野ですが、スマートフォンの分野では、省電力というのは求められます。もちろんIntelも省電力じゃないと言ってるわけではないのですが、両者の大きな差はスタンバイ時の消費電力*1です。スマートフォンやタブレットと言った、バッテリーに限りがあるデバイスでは、スタンバイ時の消費電力は極限まで少なくないといけません。もしもスタンバイ時の消費電力が大きいいと、使うのを節約しても意味がなくなっていしまい、すぐバッテリー残量が0になります。
そんな中、Lakefieldでは、このスタンバイ時の電力についても改良は加えられており、これまで、Snapdragonに劣っていたこのスタンバイ時の省電力性というのも、前世代の省電力CPU i7-8500Yで27.8mWだったのが、Lakefieldではその8%の2.5mWまで削減されて、Snapdragonに追い付きました。
Qualcommとしては、Intelに勝っていた強みをこれで一つ失うことになりました。
新しいカテゴリ
Intelは、一応Atom系列であるこのLakefieldについて、名称でAtomやPentium、Celeronなどという製品名にしておらず、Ice LakeやComet Lakeなどと同じCore i3やi5という名称にしました。そのため、Intel ARKでも、Coreシリーズカテゴリ内に収められています。
しかし、第10世代Coreには含まれておらず「Intel Core Processors with Intel Hybrid Technology」という新たなカテゴリに含まれています。ハイブリットというのは、明らかにTremontとSunny Coveのハイブリット構成であるからというのはわかりますが、驚きなのが、Coreという名前を冠してきたことです。
確かに、Core系統のSunny Coveを採用したとしても、実際にSunny Coveが使われているのは5コア中1コアのみですが、この構成で、Atomのイメージを払拭したいというIntelの思惑が伝わってきます。
IntelにとってQualcommのPCプロセッサ市場への参入は、Intelの強みが生かされているモバイル市場ではあきらかな脅威であり、QualcommははじめのSnapdragon 8シリーズのみならず、グレードダウンされたミドレルレンジ向けの8cや7cというSoCも発表し、ラップトップ市場でIntelと競合しています。
IntelのCPUとQualcommのSoCのコスパ対決では、LTEモデムやWi-Fiモデムなども内蔵されているSnapdragonの勝利であり、価格・機能・サイズについて、Snapdragonのほうが優れています。その中でIntelが優位性を保っている理由は、対応する環境が少ないという理由ですが、今後Webアプリの利用や、Windows 10ARMやSurface Pro Xを始めとしたARMプラットフォームが活性しかしていくと、このIntelの強みもなくなります。
Intelとしては、エントリ帯のCPUでQualcommと競争するために、Coreという名前をつけ、Coreのコアを使い、省電力性を高めました。今後、Intel vs Qualcommの対決がどう動いていくかはわかりません。
コアとGPU
明らかに話の順序がおかしい気がしますが、コアの話をします。この記事で何度も触れている通り、LakefieldはTremontとSunny Coveのハイブリット構成になっています。この構成は、ARM系統のプロセッサでよく見るbig.LITTLEと酷似しています。
処理能力は、TremontよりもSunny Coveのほうが高く、Sunny Coveに負荷が大きい処理を振り分け、その他のバックグラウンドなどの処理をTremontが担うことで、効率性を高めました。これまでこのような構成をする場合、平面上にコアを配置する必要があり、パッケージサイズが大きくなってしまいましたが、これは前述の3Dパッケージング技術であるForverosで解決し、上に重ねることで、以前よりも面積は小さくなりました。
GPUについては、Ice Lakeと同じGen11のiGPUが使われています。先程、Lakefieldの製品名はi3やi5という名前が使われていると言いましたが、それ以外の命名規則もIce Lakeに倣っています。そのため、i3-L13G4と、i5-L16G7のG以下の部分は、iGPUを表していることになります。しかし、Ice LakeのようにG4やG7は、性能がいいIris Graphicsになっているというわけではなく、Intel UHD Graphicsで、GPUクロックも500MHzまでになっています。Ice Lakeと共通している部分はEUの数で、G4は48コア、G7は64コアになっています。ただ、これはIce LakeとLakefieldの差別化であるという部分に納得すれば、前世代より明らかな性能向上になっており、4K60FPS画面を最大2画面出力できる割とすごいやつです。いくらUHDとは言えども、Gen11のGraphicsであり、EU数も非常に多いため、おそらくComet Lake-UやAmber Lake-YよりもGPU性能はいいはずです。
Atomの今後
Atom系統のCPUがこれまで生き残ってきた理由として、x86のCPUであったからという理由があります。SnapdragonはARMのCPUであり、Windows上では使えるソフトは限られます。Samsungが、Galaxy Book Sについて、前世代でSnapdragon 850を搭載していたのに、最新モデルではLakefieldを採用しているのは、ARMよりもx86系統のコアに需要があったことを意味しています。
Surface Pro Xが登場しましたが、Windows上のARMというのは対応ソフトも非常に少なく、ほぼ劣化なしのエミュレートができるといえど、32bitにしか対応していないなど、やはりWindows PC市場では苦戦を強いられているのが現状です。
しかし、Windows 10 ARMの発達や、Microsoft自身がARMデバイスを出してきたという部分を踏まえても、Windows ARMの市場は拡大しつつあります。そうなってくると、Snapdragonの優位点である、各種モデムやRAMの内蔵は魅力的になります。
1年後や2年後、Surface Pro Xの後継や、現在多く発表されている折りたたみデバイスで、Snapdragonが採用されているか、Lakefieldが採用されているか。今後の動向に注目です。
参考:PC Watch