先日、イーロン・マスク氏のXのポストを見ててなんとなく思ったのが、そういえばよく「PC & Mac」って、Windows/LinuxとMacって別々に表記されるよなぁってことなんですよね。個人的にこれについては仮説があるのでそれを編集後記でだべります。
そもそも「PC」とは
正直、この節でPCについて語れば、おのずと私の考えがわかるような気がしますがお付き合いください。
そもそもPCとは何なのでしょうか。ちょっと辞書を引いてみましょう。って思って、私が持ってる三省堂の新明解第六版を見るとPC乗ってないし、パソコンはパーソナルコンピュータって書いてあるし、パーソナルコンピュータにはコンピューターって書いてあるし。間違いではないんだけど・・・みたいな。
まあ黙ってネット検索をしまして。すると、小学館のデジタル大辞林には以下のように書かれていました。
「パーソナルコンピューター全般を指すが、主にPC/AT互換機の意味で用いられる。」(出典:Weblio)
まあ答えがでてしまっていますね。PC/AT互換かどうか。
広義的なPC=パソコンというのは、ラップトップやタブレットPC、そしてデスクトップPCのようなものを指します。もちろんこの定義で行くとMacもパソコンの一種と言えます。しかし、狭義の「PC」とはPC/AT互換機のことを意味します。
PC/AT互換機
PC/AT互換機とは、IBM PC AT(PC/AT)の互換機であるということを意味しています。PC/ATは、IBMが1984年に発売したコンピューターです。オープンアーキテクチャとなっていたため、このPC/ATをベースにした互換機がDellなどから多数登場しました。もともとIBMがオープンアーキテクチャにした理由というのは、当時はまだWindowsとMacみたいにOSやらプラットフォームが世界で数種類だけという寡占状態ではなかったため、遅れて参入したIBMが他社にソフトウェアやアクセサリ(周辺機器)を開発させるためであったそうですが、まあそれが結果的に互換機が生まれる原因となりました。
これが「PC/AT互換機」の始まりです。互換機というと、現代の方からすると分かりづらいかもしれませんが、語弊を恐れずに言うなら「許された模倣品」でしょうか。もし、Switchじゃないけど、Switchのゲームが遊べる機械があればそれは「Switchの互換機」となります。
PC/ATはIntel 80286というプロセッサを採用していたためPC/AT互換機でもIntelプロセッサを採用することになります。
当初のPC/AT互換機は、PC/ATとソフトウェア・ハードウェアの両面から互換性がありました。これが世の中に普及したため、PC/ATの仕様というのはデファクトスタンダードとなり、広く「パーソナルコンピュータ」として利用されていくことになります。特に、当時からすればパーソナルコンピュータを開発するのにも一苦労ですから、新興勢力参入のハードルを下げたともいえるでしょう。
その後、時代が進むに連れて、PC/AT互換機も拡張や変化が加えられていくことになります。これは、大本のIBMだけでなく、PC/AT互換機を開発・製造しているメーカーも独自の変更を加えていくことになりました。言ってしまえば、競争が加熱したわけです。その結果、IBMはPC/ATを開発した企業から、「PC/AT互換機」というデファクトスタンダードの基、パーソナルコンピュータを開発・製造・販売するメーカーの一つになったわけです。
そして、PC/AT互換機それぞれが自らの進化を進め、インターフェイスやハードウェア周りの拡張は進められしばらくしてからは「PC/AT互換機」といいながら、PC/ATと互換性は失われました。なので、現代のPCでは「PC/AT」は名前だけが残るという状態になっています。この時代の中でIBMはPCのデファクトスタンダードを作る企業ではなくなり、結局はプロセッサを開発しているIntelがその代わりをになうようになりました。そして、Windowsの発売などを経て、Intelとその互換プロセッサを含むx86系統のプロセッサが世界のパソコンシェアを独占する時代が現在まで続くというわけです。
なので、超狭義的に言えば「PC/AT互換機」というのはIntelプロセッサ、またはその互換プロセッサ(x86系統)を搭載したパソコンを意味することになるでしょう。
Mac
では、Macは「PC/AT互換機」では無いのかという話をしましょう。結論から言うと「元々は違うけど、一応『PC/AT互換機』っぽくなった後、今は微妙」。
まず、Macのプロセッサの変遷を説明します。Macはプロセッサが現在のApple Siliconに至るまでMotorola系→PowerPC系→Intel系→Arm系という変遷を辿っています。こう見ると、Intel系を採用した時期を除いてはプロセッサはPC/AT互換機ではないということが言えるでしょう。
そもそも、Macの系譜でみれば、Apple I/IIが祖先であり、Apple I/IIはPC/ATよりも前の時代であるため、PCを「PC/AT系統」とするなら、Macは「Apple/Macintosh系統」となるため、そもそも別物です。PC/AT互換機自体がApple製のコンピューターと競合する関係であったというのもあります。ただ、Macintoshの場合、プロセッサが頻繁に変更されたため、Apple I互換機やMacintosh互換機と言ってしまえば、それは異なります。Macintosh互換機とするならば、それはおそらく「Hacintosh」が該当することになるでしょう。
Intel Macと「PC」定義の変化
一方、2006年にMacはPC/AT互換機と同様にIntelプロセッサを採用することになります。この時点で、WindowsやWindowsアプリケーションがMacでBoot Campなどを用いることによってネイティブで動作するようになりました。これはPC/AT互換機と互換性があることとなり、言葉通り捉えるのであれば「PC/AT互換機」であるということになります。
では、なぜPCとMacは区別されているのでしょうか。考えられる理由としては「ハードウェアが標準化された」というところが大きいでしょう。
まず、MacがIntelを採用したことにより、コンピューターのプロセッサはx86_64が当たり前となりました。というのも、Intelに対抗する勢力は2000年前後までにパソコン分野からは淘汰されたのです。唯一残っていたのがPowerPCでした。しかし、そのPowerPCもAppleがIntelに移行した事により一気にシェアを落とし、CellやWii U向けプロセッサとして2010年代も一応残るものの、2020年までにはx86またはArmに移行されています。
そして、USBやPCi、更にはDVIなどのように、PC/AT互換かそうでないかに係わらないインターフェイスの業界標準が多数定められたことにより、周辺機器も選ばなくなりました。というか、拡張を続けたPC/AT互換機は、名前こそ互換機とするものの、プロセッサの後方互換こそ若干残るものの、インターフェイスなどを見ればPC/ATと互換性はありません。あくまでPC/AT互換機が作ってきたデファクトスタンダードに即したコンピューターとなっています。
こうした中で、PCを二分するものといえば「ソフトウェアの互換性があるかないか」ということになりました。そして、MacがIntelに変わった今、それを区別するのはOSのみです。つまりPCかそうでないかというのは「Windows」か「Mac」かということになりました。
実際、Mac以外のパソコンのOSシェアは数%のLinux/ChromeOSを除いて「Windows」ですし、そもそもChromeOSが台頭したのもここ数年のことですから「PC」=「Windowsマシン」と定義するのは自然です。あと、AppleがMacをPCと表現していないこと、PCをWindowsと事実的に定義している点も大きいでしょう。
そもそも、現在において「PC」と「Mac」が区別されて利用される場面は本当に「アプリケーション」が使えるかのみであり、この記事を書くきっかけになったイーロン・マスク氏のツイートも「利用可能なプラットフォーム」としての意味です。それ以外の場面では、MacもPCに含まれることが多いです。
つまりもうPCの定義において「PC/AT互換機」であるかないかはほとんど関係ないし、何なら、PC自体の定義も曖昧となっているのです。
PC定義の喪失
2010年代は、MacとPCが二分されたのはOSということで説明が付きました。これは、おそらく今後しばらく変わりません。そして「PC/AT互換機」をPCと定義するにせよ、2010年の時点で多くのパソコンはPC/ATとの互換性を喪失しています。
じゃあ、これ以上「PC/AT互換機」の定義をなくすことができるのかと言われれば、残すはx86のみです。ここでは、PC/AT互換機の定義を完全に喪失する2つの仮説をお話します。
x86以外のプロセッサの台頭
そもそもとして、PC/AT互換機は性質上x86系統であることが考えられます。PC/ATがx86だったからです。もちろん時代に合わせてx86も拡張されてはいますが、大本のISAは保持されています。
しかし、現代においては、x86以外のCPUの台頭もうかがえるようになりました。代表例はArmです。
Macは2020年にApple Siliconへの移行によってIntel CPUから撤退しました。先日のWWDCでは全てのMacがApple Silicon製に置き換えられ、Intel Macが終売となり、現在は製造されていません。もう数年経てばIntel MacのmacOSでのサポートも終わるでしょう。このことから、現在のMacはPC/AT互換機ではありません。
一方、Windowsでも、Microsoft直々にArmを推奨する動きがあります。例えば、WindowsのスタンダードモデルとなったSurfaceにはそのメインとも呼べるSurface ProシリーズにArmベースの「Microsoft SQ3」を搭載したモデルがあります。
では、Arm搭載マシンはPCではないのかと言われれば、そうではないかもしれないですよね。Arm搭載PCです。ただ、このArm搭載マシンにおいてのPCは広義としてのPCとなります。これがもし広く使われれば、きっとPCの定義は喪失します。
x86S
もう一つ。それは、もはやPC/ATと一切互換性がなくなること。
x86プロセッサにはまだ、16-bit起動モードが残されています。PC/ATも16bitでした。しかし、現代のコンピューターで16bit起動を求められることはそうそうありません。どうやら、x86プロセッサは、16bit起動モード→32bit起動モード→64bit起動モードというふうに起動モードを変化させてから起動させていたようで、このうち16bit起動モードを削除するという方針です。
ある意味、16bit起動モードは、PC/AT互換というものを現代まで残している唯一の遺産とも言えますが、これも将来的にはなくなります。
すると、言葉通りの「PC/AT互換機」ではなくなり、定義を喪失することになるでしょう。ただ、「PC/AT互換機」との互換性は保たれます。「PC/AT互換機互換機」を「PC/AT互換機」とするなら、この話はただの杞憂となりますが。。。
〆
さて、ここまでPCの定義とともに、なぜ「PC」と「Mac」が区別されるかについて話してきました。話の主軸が「PC/AT互換機」になってるだろって?こまけーこったきにすんな!
まあ、現在において、PC or Macは、WindowsかMacかを意味するものになっているので、ここまで深く考える必要はないです。ただ、こんな歴史があるんだなぁと思っていただければ。
今回のPCに限らず、言葉の意味は時代によって変化するものです。貴様がいつしか人を見下す言葉になっていたり。時代ってのはわかりませんよ。もしかしたら数世紀後には「マジ?」「ヤバ」が敬語になってるかもしれない。もしかしたらPCという言葉は数年後には死語になってるかもしれません。
ただ、そういうのって追いかけるとちょっとおもしろいですよね。
出典
申し訳ないですけど、だいぶWikipediaに頼りました。