Qualcommは、Armベースで独自CPUを初めて搭載したパソコン向けSoC「Snapdragon X Elite」を正式に発表しました。
Snapdragon X Elite
Snapdragonにはモバイル向けのラインナップとは別に、Snapdragon 8cxあるは8c/7cというパソコン向けのラインナップが存在しています。現在最新のチップは「Snapdagon 8cx Gen 3」で、登場が若干前となっていました。Windows ArmとChromebookに対応しており、基本的にはIntelやAMDのそれと同じように使うことができます。
Snapdragon 8cx Gen 3とSnapdragon X Eliteの違いを見てみましょう。
8cx Gen 3 | X Elite | |
---|---|---|
プロセス | Samsung 5nm |
TSMC 4nm |
CPUコア数 | 8 | 12 |
構成 | 4P4E | 1コアのみ |
クロック | 3GHz(Pコア) | 3.8GHz |
ブースト クロック |
なし | 4.3GHz (1~2コア) |
GPU | Adreno | Adreno |
GPU性能 | 不明 | 4.6 TFLOPS |
メモリ | LPDDR4X-4266 16bit 8ch |
LPDDR5X-8533 16bit 8ch 最大64GB |
最大メモリ帯域 | 68GB/s | 136GB/s |
映像出力 | 4K60Hz x 3 5K60Hz x 2 |
|
AI性能 | 15TOPS | 45TOPS |
5G | X62/X55/X65に対応 | X65に対応 |
CPU
CPUは8cxまではArmのIPを利用した「Cortex-X1」と「Cortex-A78」を組み合わせたbig.LITTLE構成のCPUでしたが、X Eliteでは12コアの独自アーキテクチャ「Oryon」を採用しています。8コアから12コアにコアが増えていますね。
OryonはAppleでApple A12Xなどの高性能プロセッサを手掛けたエンジニアが独立したNuviaという会社が開発を続けていたアーキテクチャであり、QualcommがNuviaを買収したことでSnapdragonに搭載されることになりました。命令セットにはArmを採用するため、基本的にもともとのCPUと互換性はあります。Appleも同様にArmの命令セットを利用し、アーキテクチャは独自で開発するという形を取っています。
また、big.LITTLE構成ではなくなり、12コアすべてがOryonであるという点も特徴的です。すべてのコアは基本的に最大3.8GHzで駆動しますが、12コア中2コアのみ最大4.3GHzにブーストします。
CPUの性能・効率を見ていくことにしましょう。Qualcommは、Intelの28W帯シリーズの現行モデル「Core i7-1360P」と比較して、同じ電力量であれば性能2倍となり、同じ性能であれば電力は68%削減となるそうです。同様に現行のIntelの45W帯モデル「Core i7-13800H」と比較すると、同じ電力量であれば性能1.6倍となり、同じ性能であれば電力は65%削減されるとしています。
シングルスレッドの性能では、Intelのモバイル向けCPUの最高峰である「Core i9-13980HX」と匹敵かそれ以上の性能を誇っているにも関わら70%低い電力でこれを実現していると言います。
そして、Qualcommとしての強敵「Apple M2」と比較すると、マルチスレッド性能は50%高いとしています。そして「Apple M2 Max」と比較してシングルスレッド性能は13%高く、消費電力は30%低いとしています。ただ、Apple M2とM2 Maxはクロックが同じでありシングルスレッド性能に大きな乖離はありませんので、ここでM2 MaxとX Eliteを比べたというのは多少M2より消費電力が大きいのかもしれませんね。
GPUと映像出力
GPUはDirectX 12に対応したAdrenoを搭載しています。
性能は4.6TFLOPSとしており、これはApple M2(3.6TFLOPS)よりも高い性能となっています。
比較としては、「Core i7-13800H」と比較して、同じ電力量であればGPU性能2倍、同じGPU性能を74%少ない電力量で実現できるそうです。
映像出力としては、eDP1.4で最大4K120Hz、DP1.4で最大3台の4K60Hzまたは、最大2台の5K60Hzに対応しています。映像出力はM1/M2よりも強いですね。
AIと画像処理
Hexagon NPUも強化されており、NPU単体で45TOPS、CPU+GPU+NPUで75TOPSと8cx Gen 3の15TOPSと比較すると大きく性能が向上しています。
Spectre ISPは36MPのカメラが2つ、または64MPのカメラが1つを処理することができ、4K HDRの動画撮影に対応するようになっています。
インターフェイス
接続面では、40GbpsのUSB4を最大3基、最大10GbpsのUSB 3.2 Gen 2を2基、USB 2.0を1基の計6基のUSBが搭載可能で拡張性にも富んでいます。
ネットワークではWi-Fi 7に対応する上で、Snapdragon X65モデムと組み合わせることで下り最大10Gbpsのミリ波対応5Gにも対応できるようになっています。ワイヤレスではBluetooth 5.4に対応します。
インターコネクトも強化されており、UFS 4.0のストレージの他、PCIe 4.0にも対応しています。
メモリ
メモリは、128bitバス幅(16bit x 8ch)のLPDDR5X-8533に対応しており、メモリ帯域幅は136GB/sと結構帯域が大きいメモリとなっています。特にLPDDR5Xをコンシューマ向けでサポートした最初の例になっています。
最大容量は64GBで、こちらも実用に耐えうる仕様です。
発売
搭載製品は2024年半ばまでに登場とのことで、まだどのベンダーがどの製品を展開するかなどは明らかになっていません。
おそらくWindowsとChromebookの両方で展開されることになるでしょう。