昨日から予約が始まった「iPhone 15 Pro」に搭載される「A17 Pro」の仕様が徐々にわかってきました。
A17 Pro
A17 Proは、iPhone 15 Pro/15 Pro Maxに搭載されているモバイル向けSoCです。世界で初めての3nmプロセッサとなっており、プロセスルールの世代で見ると、A14から2年ぶりのプロセスルールの世代交代となります。翌々考えたら、A15も4nmなんで微細化自体はここ数年毎年なんですよね。
そしてブランドも変更されました。A17 Proは名称に「Apple」とも「Bionic」とも付きませんでした。Bionicという名称は2017年のA11から用いられていたので、この部分の名前が変更されるのは6年ぶりとなります。
トランジスタ数は、190億基となっており、160億基だったA16と比較して19%程度増加しています。微細化と合わせると、おそらくダイサイズ自体はほぼ同等であると見られています。
詳細な仕様
では、詳細な仕様を見ていきます。
CPU
CPUは、2コアの高性能コアと、4コアの高効率コアで構成される6コアとなっており、コア構成は全世代からかわりはありません。マイクロアーキテクチャは更新されてるとしていますが、まだ噂程度の話ですが、A15のアーキテクチャをベースにリフレッシュしているという話もあります。
クロックは、最大3.8GHzとなっており、Apple Siliconの中で最大のクロックとなっています。これすごいなって思うのは、A12で2.5GHzだったのが世代を重ねることに2.66GHz(A13)→3.0GHz(A14)→3.2GHz(A15)→3.5GHz(A16)→3.8GHz(A17)と着実にクロックが向上しているという点ですね。
シングルでは最大15%程度、マルチでは最大10%程度性能が向上しています。順当な進化と言えますが、Apple Siliconの性能向上率としては小振りです。
Geekbench 6の情報によると、L1命令キャッシュが128KB、L1データキャッシュが64KB、L2キャッシュが4MBとなっていますが、ここの数字はあまり当てにならない(いつも間違ってる)ので実際は12MBとか多いんじゃないかと。
GPU
一方でGPUはかなり大幅なアップデートが加えられています。
まず、GPU自体の性能を見ていきましょうか。
ベンチマーク
GPUのベンチマークスコアのデータはそれぞれ1件ずつとまだ少ないです。
ベンチマークの比較でいうと、21%程度の性能向上。これはAppleの公称と同じですので、これらのデータは大体平均となっているでしょう。
GPUはコア数が6コアとなっており、Apple A16 Bionicから1コアGPUのコア数が増えています。GPUは規模と性能が比例する傾向があるので、この性能の向上はGPUのコア数状況が影響しているのでしょう。微細化による電力効率の向上や小型化によって実現したのでしょう。
機能面
機能面では、「メッシュシェーディング」「ハードウェアアクセラレイテッドレイトレーシング」「機械学習ベースのアップスケーリング」。この3つの追加がかなり大きなアップデートだと言えるでしょう。
まず、「メッシュシェーディング」。メッシュシェーディングは、ジオメトリパイプラインを改善するためのデファクトスタンダードです。NVIDIAが発案し、MicrosoftがDirectX 12で統合した事により標準的になりました。すでにNVIDIAだけでなく、AMDやIntelでもサポートされており、近代的なGPU機能の一つであると言えるでしょう。すでにMetal 3ではソフトウェア面で対応しており、事前準備は済んでいます。
そして、「ハードウェアアクセラレイテッドレイトレーシング」。これはNVIDIAでいう「リアルタイムレイトレーシング」に当たるものです。こちらもDirectX RaytracingとしてDirectXが対応している技術で、NVIDIA、AMD、Intel、それにArm、Qualcommも対応している機能です。ゲームなどにおいて、リアルタイムにレイトレーシングを有効にするためのハードウェアアクセラレータを搭載しています。こちらも、すでにMetal 3でソフトウェア側の対応が済んでおり、ハードウェア側の対応となりました。
最後にこれはまた別途記事にしたいと思いますが、MetalFX UpscalingのNeural Engineが明らかにされました。これはA17 Proに限るのか、Metal 3が対応するA13まで遡って対応するのかは不明ですが、少なくともA17 Proでは利用可能です。詳細は別途記事にします。
このように、Metal 3がDirectX 12 Ultimateの機能に追いついていく中、Apple SiliconのGPUも徐々にNVIDIAやAMDのゲーミングGPUと同じ機能を備えるようになってきました。今回はこれらのハードウェア機能が強化された点でGPUのメジャーアップデートになったと言えるでしょう。
Neural Engine
Neural Engineについては、16コアで同じコア数を維持しますが、その演算性能はそのまま倍になっており、毎秒17兆回演算できたのが、毎秒35兆回に強化されています。
引き続きローカルでのSiriの処理に対応する上、ペットなどの被写体認識、ポートレートの被写体深度の調整などにも用いられています。
USBコントローラ
そしてiPhone 15シリーズ最大の特徴と言っても過言ではないUSB Type-Cへの対応がありますが、USB 3 10Gbps(USB 3 Gen 2x1)のコントローラをA17 Proに搭載していることを明らかにしています。
実際に、USB 3に対応したApple Siliconはこれが初めてではなく、iPad Proに搭載される系統(A9X/A10X/A12X/A12Z)とMac系統(M1/M2)が対応している他、iPhoneにも搭載されるApple SiliconにはA15が対応しています。ただ、A系統に10GbpsのUSB 3がマージされたのはこれが初めてです。
iPhone 15 ProのUSB-Cは、USB 3 10Gbpsのデータ転送の他、オーディオ出力、そしてDisplayPort Altnative Modeを利用した映像出力に対応しています。最大解像度は4Kです。
メモリ
メモリは8GBとなっています。ついにiPhoneも8GBの大台となりました。
帯域については、Appleからの言及がなかったことをかんがえると、LPDDR5-6400のままで102.4GB/sであるものと見られます。
その他
その他の部分についても述べていきましょう。
まず、Pro Display Engine。iPhone 15 Proの機能「ProMotion」と「常時表示ディスプレイ」をサポートしています。ただし、iPad Air/ProのStage Managerのように拡張ディスプレイについては言及されておらず、おそらく非対応であると見られます。
そして、デコーダ・エンコーダ部分。A16までの機能に加えて、A17ではついにAV1のハードウェアデコーダが追加されました。エンコーダは追加されていません。これはおそらくiPhoneはコンテンツ制作ではなくコンテンツ消費が中心のデバイスなのでデコーダのみの搭載となったのでしょう。これはあくまで予想ですが、コンテンツを生み出す次期MacはAV1エンコーダも搭載しているのでしょう。
ベンチマーク
では、ベンチマークを見ていきます。Geekbench 6のデータを参考にします。
CPU
CPUから参りましょう。
A17はこのデータを参照することにします。
スコアはシングル2933・マルチ7432となっています。Geekbench 6のデータを眺める限り、シングルは2700~3000、マルチは6800台後半~7600程度となっています。ただ、マルチが最大7779程度にも上るケースがあり、非常に高いです。
このデータを用いれば、A16と比較してシングル/マルチともに16%ほどの性能向上となります。データにもよりますが、大体10%~20%程度の性能向上となるでしょう。
まずはシングルから。
Single | |
---|---|
i9-13900KS | 3090 |
i9-13900KF | 2963 |
A17 Pro | 2933 |
R9 7950X | 2908 |
これを見ていただければわかりますように、シングル性能はIntel・AMDの最新世代と同等となっています。ただ、これらのCPUのクロックが5GHz台なのに対して、A17が3.8GHzなことを踏まえても、IPCはかなり高いことがわかりますね。
ついでマルチ。
Multi | |
---|---|
i5-12500T | 7465 |
A17 Pro | 7432 |
R9 5900HX | 7422 |
R TR 1950X | 7359 |
マルチは、Alder Lakeの35Wグレードのミドルレンジや、モバイル向けZen 2の上位向けモデルや16コアのThreadripperにも勝ります。普通にやばい。
GPU
続きましてGPU。
GPUはこのデータを参照します。
過去のGPUと比較します。
前世代のA16と比較すると23%性能が向上しています。また、M1ともかなり接戦となっています。
Metal | |
---|---|
Radeon Pro W5500X |
27973 |
A17 Pro | 27433 |
FirePro D300 | 25342 |
Radeon RX 560 | 24229 |
AMDのGPUと比較すると大体RDNA世代のW5500Xと同等の性能となっています。
機械学習
Geekbench 6には、機械学習性能を測定するテストが追加されています。
CoreMLは、CPU・GPUとNeural Engineを組み合わせて機械学習性能を高めるAppleのAPIを用いて測定するものです。Core MLで比較すると、A16から13%の性能向上となっています。