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活路が増えるIoT時代の「920MHz」帯についてまとめる

3行まとめ

電波の周波数帯というのは広範に渡って活用されているものです。普段Wi-Fiで使用している帯域は2.4GHz/5GHz、そして最近新たに加わった6GHzですし、5Gも最近楽天モバイルにも割り当てられた700MHz帯(プラチナバンド)から、ミリ波と呼ばれる28GHz(mmWave)まで、本当に広範に渡った使われ方をしています。

IoT時代において、無線の重要性は今後更に高まっていくことになるでしょう。

今回は、その無線について920MHz帯に注目してみようと思います。

不定期「Step-ZERO」

このシリーズでは、読者の皆様がなにかを調べる「最初の段階」となる内容をまとめています。この記事から更に調査を進めるもよし、この記事で好奇心を満たしてもらえるのもよし。皆様の調査に一役買えたら嬉しいです。

電波の性質

通信帯域は、その帯域によって特性が異なります。例えば、28GHzという非常に高周波なミリ波5Gの場合、非常に高速なデータ通信が行える反面、直進性が強いため障害物に弱く一つの基地局でカバーできる範囲が限られるという課題があります。

一方で、700MHzのような低周波なプラチナバンドは、通信速度はより高帯域な電波と比べて遅い反面、障害物に強く電波が遠くまで届き、単純に電波が使えるエリアを増やすという点に対してはかなり有利に働きます。そして、高周波数に比べて低周波数は基地局の消費電力が小さいというメリットもあります。

つまり、動画や大規模ファイルなどの大きなデータの転送を主目的とする場合は高周波数の方が利点があり、逆に単純に起動信号や、テキストデータ、低画質映像などを転送するような場合には低周波数が向いています。

920MHz

920MHz帯の通信帯域は基本的に、Low Power Wide Area(LPWA)の一つの帯域とされます。これは、920MHzが先述の700MHzのように低電力で広範囲の通信を実現することから呼ばれています。

LPWAは、あくまでもネットワークを構築しデータを送受信できることを目的とした用途を目的としているため、4K/8Kなどの動画データのような大きなデータの送受信には向いていません。*1しかし、スマートメーターのような制御・監視などには非常に好適な周波数帯となっています。

920MHzの利点

LPWAとされる帯域は他にもありますが、920MHzがアツい理由は、単純にそれだけではありません。日本国内では免許が不要で利用できるという点も重要です。

LPWAはライセンスバンド(セルラー系)とアンライセンスバンド(非セルラー系)とに分けられます。違いとしては、前者は免許が必要、後者は条件下で不要な点。

技術的にも若干の違いがあり、セルラーと書いてあるとおり、ライセンスバンドは周波数も技術もLTEをベースとしたものが用いられるのが主流です。*2。一方で、920MHz帯はそういったことが定まっていません。

そういったこともあり、920MHz帯は、無料で免許なしで使えることから、独自規格から世界標準まで幅広く用いられています。

自由に無料で使えることから、特定のエリアで独自のネットワークを構築することも可能で、エネルギソリューションやIoT制御なども実現するなど、応用される分野は多岐にわたります。

920MHzの歴史

920MHz帯は従来950MHz帯に割り当てられていたRFIDやアクティブ系小電力無線システムの帯域を、周波数再編の中で920MHzに移動してきたものとなっています。

950MHzだったこれらのシステムが920MHzに移動してきたことにより、小型無線システムにおいてもかなり大きなメリットが生まれるようになりました。

950MHz時代は950MHz〜958MHzの8MHzのみだった帯域は、920MHz帯に移動したことにより、915MHz〜930MHzの15MHz分使えるようになりました。

更に、帯域が変わったことにより、250mWまでの出力が可能になった上、免許が不要な出力も20mW以下となりました。これによりIoT分野での活用が大幅に進むことになりました。

チャネル

日本において920MHz帯は916MHz〜929.65MHzまでが定められています。この内、916.00MHz 〜 928.00MHzは、916MHzをチャネル1とし、200KHzごと61チャネルが定められています。そして、928.15MHz〜929.65MHzは、928.15MHzをチャネル62とし、100KHzごとに16チャネルが割り当てられています。これらを合わせて920MHz帯は77チャネルとなります。

チャネル一覧(100kHz/200kHz)

チャネル 帯域(MHz) チャネル 帯域(MHz)
1 916.00 40 923.8
2 916.2 41 924.0
3 916.4 42 924.2
4 916.6 43 924.4
5 916.8 44 924.6
6 917.0 45 924.8
7 917.2 46 925.0
8 917.4 47 925.2
9 917.6 48 925.4
10 917.8 49 925.6
11 918.0 50 925.8
12 918.2 51 926.0
13 918.4 52 926.2
14 918.6 53 926.4
15 918.8 54 926.6
16 919.0 55 926.8
17 919.2 56 927.0
18 919.4 57 927.2
19 919.6 58 927.4
20 919.8 59 927.6
21 920.0 60 927.8
22 920.2 61 928.0
23 920.4 62 928.15
24 920.6 63 928.25
25 920.8 64 928.35
26 921.0 65 928.45
27 921.2 66 928.55
28 921.4 67 928.65
29 921.6 68 928.75
30 921.8 69 928.85
31 922.0 70 928.95
32 922.2 71 929.05
33 922.4 72 929.15
34 922.6 73 929.25
35 922.8 74 929.35
36 923.0 75 929.45
37 923.2 76 929.55
38 923.4 77 929.65
39 923.6

920MHz帯を利用した規格

920MHz帯を利用した規格もすでに存在しています。

例えば、Wi-Fiの一部であるIEEE 802.11ahは920MHz帯を利用した規格です。Wi-Fiと言っても、やや特殊でありメインストリームのa/b/g/n/ac/axとは異なり、「Wi-Fi HaLow」と言われます。

それ以外にもエネルギー分野で仕様が進む「Wi-SUN」規格も920MHzを利用した規格です。

その他、SigFox、LoRaWAN、ZETAなどがあります。

Wi-SUN Wi-Fi HaLow
802.11ah
SigFox LoRaWAN
最大転送速度(理論値) 800Kbps 24Mbps 27Kbps 600bps
通信距離(理論値)※ 1km 50km 10km

※最大転送速度が最大通信距離の位置で発揮されるわけではない

汎用的に扱うことができるWi-Fi HaLow以外は基本的に用途が限られており、それに向けた仕様となっていることが多いです。そのため、用途を選択すれば基本的に規格を見出すことができるでしょう。

一方でWi-Fi HaLowは、汎用性に優れています。2.5kmの距離で2Mbpsの通信ができた*3とのことなので、相当使いやすいと思います(もちろん環境にもよりますよ*4)。ただ、Wi-Fi HaLowは、1MHzチャネルを利用するため、混線が発生する気もします。一応、1mWを超える出力だとキャリアセンスが必要となるので、それでどうにかなる可能性もあります。

Wi-SUNについては、日本発の通信規格として注目されています。Wi-SUNはエネルギソリューションで実用例がありますし、形を見ている限りはスマート家電の連携にも応用できるものになっています*5

今後の活路

920MHz帯は今後よりIoT分野で使われていくことになるでしょう。特に、免許無しで自分でネットワークを構築できるということから、キャリアの通信が届かない場所での作業、例えば、登山や救出作戦への積極的な採用、林業や農業でのスマート化、DX化への活用も考えられるでしょう。

(以下、参考文献)