シェア・性能・製造能力、この世のすべてを手に入れた企業、米半導体大手Intel(とAMD)。彼らの14nm足踏みの際に放った一言は人々をガチPC市場へと駆り立てた。「俺のシェアか?欲しけりゃくれてやる」「探せ!!!この世のすべてをそこにおいてきた!!」男たちは、超省電力PCを目指し、夢を追い続ける。世はまさに大効率時代!!!(以上フィクション)
四つ巴
現在、パソコン向けCPU市場は、Intel、AMD、Qualcomm、Appleの四つ巴となっている。数年前までは、ラップトップ向けCPUはIntelの独壇場であり、現在に至ってもIntelの独壇場となっているセグメントがラップトップには残っている。
しかし、2017年にAMDがRyzenブランドでラインナップを刷新したこと、Windows ArmとともにQualcommがPC市場に参入したこと、2020年にAppleがApple Siliconをそれぞれ投入したことに加えて、Intelが2015年頃からプロセスルールの進行に苦戦した結果、マイクロアーキテクチャの大きなアップデートが進まず、Skylakeという同じアーキテクチャを改良を繰り返すことでアップデートしていったこともあり、結果として、IntelのシェアをAppleとAMDが奪う事になった。
特に、ArmベースのSoCを投入してきたQualcommとAppleの参入は、2010年にMacBook Airが登場して以降トレンドだった軽量化・バッテリー駆動時間の向上という面での競争がさらに加熱した。つまり、いかに軽量でバッテリー駆動時間を伸ばし、そして性能を維持するのかが現在のモバイル向けCPUでは重要である。
その中でCPUの消費電力と効率は重要である。この際の消費電力は、おそらく低負荷時の消費電力になるだろう。AppleやQualcommは、やはりスマートフォン向けのアーキテクチャをベースにしていることもあり、この低負荷時、アイドル時の消費電力はかなり小さくなっている。一方、IntelやAMDもアイドル時の消費電力を落とそうと努力はしているが、Arm系には勝てない。理由は様々だが、Arm系統のほうが構造が単純であり回路が簡単であるというのが大きいであろう。x86は過去の資産を使うことができると同時に、過去の資産のために互換性を残した。この影響で、構造やら回路が複雑で難しくなり、結果として効率性を高めることが難しくなってしまっているのである。
現在までのアプローチとしては、もちろんAppleとQualcommはスマートフォン版のアプローチをそのまま採用している一方で、Intelは2021年のAlder Lakeから「Intel Hybrid Technology」というヘテロジニアス構成のコアを採用した。これは、AppleやQualcommが採用しているbig.LITTLEと同じ様なものであるがIntelは効率性を高めるとともに性能を上げる構成だと主張している。
そしてもう一つ、2024年以降重要になる部分が「AI」である。AIはAIでも「オンデバイスAI」が非常に重要になるだろう。
昨年の生成AIブームによって第3次AIブームがやってきた。そして、AI機能は、様々なアプリケーションで活用されている。これらのAI機能は基本的にCPUやGPUで利用する事もできるが、それ専用のアクセラレータがあったほうが高速である。これまで、それなりのレスポンスの速度が必要とされる場合、例えばCortanaやSiriのような音声アシスタントはローカルで処理することができず、オフラインで完結するような処理を依頼した場合でも、一度サービスを提供しているサーバーに情報を送信して処理して貰う必要があった。それをローカルで完結できる「オンデバイスAI」が最近注目されている。
オンデバイスAIを実現するにはそれなりのCPU性能とGPU性能がいる。これを一般向けのCPUやGPUで実現するのは消費電力のことを踏まえても現実的ではない。そこでそれ専用のアクセラレータを用意する。それがNPUである。
すでにAppleとQualcommは2010年代から自社の製品にそれぞれ「Neural Engine」、「Hexagon」としてNPUを搭載している。これらのデバイスはオンデバイスAIをある程度実現している。例えば、Appleは第2世代Neural Engineを搭載しているApple A12 Bionic以降ではSiriをオンデバイスで処理可能にしている。
もちろんこれは、音声アシスタントだけではない。最近流行りの生成AIもモデルを用意すれば、もちろんそれ専用のハードウェアで処理するよりかは時間が掛かるが、これまでの汎用マシンよりも高速に推論を行うことができる。トレーニングには規模的に不向きであるが、小さなモデルならそれなりの速度で処理できるはずだ。
各社のアプローチ
とここまで、現況をお話してきた。ここからはこれから先、2024年以降に登場するパソコンに搭載されることになるCPUについて見ていくことにしよう。
リードしている分野で逃げ切るApple
Appleは基本的に各社より低負荷時の消費電力とオンデバイスAIで大きくリードしている。だからといって他社の猛追があるので油断はできない。Apple M3でも様々な更新が行われている。
TSMC 3nmの採用
今回、消費電力面で注目すべきなのは、TSMC 3nmプロセスルールになっているということだろうか。世界で初めてのTSMC 3nmを採用するコンシューマー向けプロセッサとなる。プロセスの微細化は基本的に性能の効率性を高める。つまり、既存のプロセスと比較して、同じ性能のときに消費電力が下がることになる。おそらくApple M3は微細化の恩恵を強く受けられることになるであろう。
構成面で見ても、多少位置づけの変更があり性能もそれほど向上していないApple M3 Proであるが、性能が同等であるとしても高性能コアが2コア削られ、高効率コアが2コア増えた。このコア数の変化は消費電力が下がる要因となる。
プラットフォーム全体でAIを強化
AIについて見てみよう。今回のAIブームにAppleの存在感はそれほど大きくはない。ただ、Appleもこれを黙ってみているわけではない。今年のWWDCでは明らかにAIに関する言及が増えた。例えば、iOS 17やmacOS Sonomaには改良されたTransformerをベースにした機能への言及が目立った。そして、先日のMacの発表会でもAI開発という分野でのApple Siliconの優位性をアピールした。Apple M3の発表会でも、ニュースリリースでもM3 Maxが数十億のパラメータを使用する大規模なTransformerモデルを操れるとした。
AppleのAIの方向性としては、やはりコンテンツ制作において活かされるAIがアピールされている印象がある。これはAppleに限った話ではないが、基本的にコンシューマー向けのラップトップレベルに搭載されるプロセッサでは、大規模モデルのトレーニングを実現できるほどのNPUを搭載することは困難だろう。ならば、それを作るのではなく使う程度の性能にターゲットを絞りつつ、推論性能を高めるというのは順当な考えであるといえる。
そして、Appleの強みといえばソフトウェアなのである。Appleは今回紹介する4つの会社の中で唯一、プロセッサとハードウェアに加えてソフトウェアとプラットフォームを開発している企業である。macOSやiPadOS、iOSにはAI機能が根底から追加されている。AIを活用した機能についてはWindowsを遥かにリードしており、Apple Siliconの進化はすぐさま反映される。そして、5年以上前からAI機能が搭載されているiPhone/iPadの市場をMacが部分的に吸収している関係で、AIコンテンツが整ったプラットフォームとしても成熟している。これらは来年以降かなり大きな手札となる。
ただ、裏返せばこれまでMacの強みだったAIコンテンツ・機能の多さにおいて、Windowsが追いついてくることが考えられるため、Windowsと差別化できるかどうかが注目ポイントだ。Appleはもう7年も前から「CoreML」という、Apple Siliconに最適化されまくったSDKがあるので、開発プラットフォームとしても成熟している。AppleがNeural Engineを推しまくった結果、AI技術を持つソフトウェアベンチャーが参入しやすい環境となっているのも非常に有利に働く。この利点を活かしきれるかどうかが命運を分ける。
Appleについては、どちらかというとこれらのトレンドをリードする立場であるため、そこまで今年特化したというわけではない。もとから取り組んでいたものが実を結ぶことになりそうという評価である。ただ、最近は小振りのアップデートが続いている印象なので、猛追するQualcommに食われなければいいが。
AI機能てんこ盛りのWindows
残り3社の攻略を見る前に、これらの企業の製品がメインのターゲットとしているWindowsについて見ていこう。Windowsでは、消費電力の改善につながるような進化があるかと言われれば、常日頃からそういった部分の改良が続けられているということもあり、今年だからと言う理由で特段進化したということはない。
一方でmacOSを追随しAI機能を多数搭載する計画がすでに始まっている。まず、先日配信されたWindows 11 v23H2では、Windows Copilotの他、ペイント、フォトなどの既存のソフトにも生成AIを用いた新技術が導入された。更に、汎用的なAIの使い方もある。Snipping ToolではOCR機能が実装された。
WindowsでAI機能をこれまでリリースできなかったのは、Windowsとプロセッサの製造が別だったことが原因として考えられる。Appleの場合、プロセッサ・ハードウェア・ソフトウェアすべてを自社で開発しており、Appleが思った通りにMac自体も進化する。AIについてもAppleは2018年からユーザーが触れるNeural Engineを搭載しているため、OSとしてAI機能の導入は至ってスムーズだった。
一方Windowsの場合、NPUの搭載が遅れた。というよりかは、それほど重要ではなかった。Qualcommは2017年にSnapdragon 835をWindowsに投入した時点でHexagon NPUを搭載していたが、IntelとAMDでNPUが搭載されるのはちょうど現在だ。ただ、MicrosoftとAMD、Intelは水面下でAI機能を着々と用意していたようで、結果としてMicrosoftはWindows 11にAI機能の導入を発表。合わせてAMDとIntelもNPUのコンシューマー向けプロセッサへの採用を表明した。
AMDが先んじて年始にリリースしたプロセッサでRyzen AIというNPUの導入を初めているが、ラインナップは一部に留まる。Intelは12月にMeteor Lakeを発表し、そこにNPUを搭載する。おそらくAMDも来年にはメインストリームグレードすべてにRyzen AIを搭載してくることが考えられるため、2024年のメインストリーム以上のパソコンではAI機能がソフトでもハードでも標準装備となるだろう。
NPUはWindowsでGPUと同等に扱われる。タスクマネージャーではNPUの使用率などの情報が見られるようになる。そして、NPU搭載デバイスでは、Windows Studioなる新機能も利用可能だ。
そして、アプリケーションでのAIサポートも進むと考えられる。NPUの採用が進むことでサードパーティもAI機能を導入しやすくなる。NPUはAPIを叩き利用することになるが、この点はすでにDirectMLがスタンドアロンで提供されているため問題はない。数年でCoreMLに追いつくだろう。
Windowsは、今後Windows 12としてリリースするであろう新バージョンにも、心置きなくAIを導入する考えを示唆している。リリースサイクルがもとに戻ったという話が本当であるとするならば2024年にはWindows 12が登場することになるため、どのようにAI機能が導入されるかは注目だ(ただ、ここでNPUがないとアップデートできませんとか言ったらまじ、ほんと。怒るかんな!!)
新機能・新技術・工夫のIntel
Intelは今年12月14日にMeteor Lakeの発表会を行う。発表会と言っても、すでに技術面が公表されていることから、残すは製品周りの情報のみである。
Meteor Lakeは構造的に見てもかなり大きなアップデートとなる。
低電力アイランド
まず、Meteor Lakeでは、他社のチップレット構造にあたる「タイル構造」を採用する。このタイル構造は、Intel 22nmで製造される「Base Tile」の上に、最新のIntel 4プロセスで製造される「Compute Tile」、TSMC 5nmで製造される「GPU Tile」、TSMC 6nmで製造される「SOC Tile」、TSMC 6nmで製造される「I/O Tile」の4つのタイルが実装される。タイル構造に3Dパッケージング技術であるFoverosがハイブリッドで採用された。
この内、Meteor Lakeで最も注目に値するタイルはSOC Tileになるだろう。SOC Tileにはあらゆる機能が搭載される。例えばCPUが搭載される。Compute TileにもCPUがありながらSOC TileにもCPUが搭載されるのだ。そして、GPU Tileがありながら、Xe Media EngineとXe Display Engineの2つのアクセラレータはSOC Tileに搭載される。それ以外にはメモリコントローラ、各種I/Oと、NPUが搭載される。
なぜ、Compute TileやGPU TileがありながらSOCタイルにCPUやディスプレイエンジンを搭載するのか。これを説明する前に今回のCPUの変更点を一つ紹介する。
今回、Meteor LakeではAlder Lakeに引き続き、Arm系統のbig.LITTLEに相当する「Intel Hybrid Technology」を採用する。ただし、構造が異なっている。Alder LakeとRaptor Lakeでは、PコアとEコアの構成であったが、Eコアよりも更に消費電力が小さい「E LPコア」を新設した。E LPコアはEコアと同じ「Crestmont」アーキテクチャを採用しながら、より低電力で動く。もちろん性能も小さいが、アイドル時には十分の性能を持っている。SOC TileのCPUとはこのE LPコアのことだ。
そして、ディスプレイエンジンであるが、これは正しくXe GraphicsのDisplay Engineを切り抜いたものである。映像出力に必要なエンジン。これだけをSOC Tileに独立させる。
つまり、SOC Tileには、アイドル時に必要な性能を持つ小さいE LPコア CPUと、映像出力機能、そしてメモリコントローラやら各種コントローラを搭載しているので、低負荷時にはSOC Tileのみで動作させることができ、Compute TileやGPU Tileを眠らせる事ができるのだ。SOC Tileは低電力で動作するように設計されているため、アイドル時の電力をぐっと抑える事ができる。
おそらく、効率性で見ればMeteor LakeではAppleに追いつくことができなかった。ただ、アイドル時の電力はバッテリー駆動時間に大きな影響を与えるため、低電力アイランドとして、PCの起動状態を維持するのに必要な最低限の機能を独立させたということだろう。この発表を見ていてとても面白い発想だと感じた。
CPUと連携が鍵となるNPU
AI周りを見ていこう。SOC Tileには「NPU」が搭載されている。IntelがNPUをCPUに無条件で搭載するのはこれが初めてだ。
Intel NPUは、Movidiusの技術がそのまま使われている。以前までの名はVPUという名前だった。Intel NPUは1クロックあたり2048回のFP16とINT8精度での演算が可能。さらに内部にSRAMを備えているためメインメモリへのアクセスも頻度が減少する。
IntelはNPUを搭載することでAI処理(例:Stable Diffusion)の効率が7.8倍向上するとしている。
Intelの注目点は、Intel NPUがCPUやGPUとどれほど連携して性能を上げるかである。
他社とは違うヘテロのAMD
AMDを見ていこう。
AMDもヘテロだがIntelとは違うぞ
AMDは、「Ryzen 3 7440U」「Ryzen 5 7545U」の2製品に、Zen 4とZen 4cからなるヘテロジニアス構成を導入した。ただ、Intel Hybrid Technologyと同じように見えるが、中身は異なる。
まず、Zen 4とZen 4cは、基本的に同じであるということ。ヘテロジニアス構成としては珍しく、クロックがコアの種類毎にばらばらではなく、すべてのコアで共通した仕様となっている。キャッシュも同じだ。そして、命令セットも同じであるため、Intelと違ってAVX512を利用することも可能。
そして、この共通点の多さはOSのスケジューリングを改良するのみで対応することができるため、ハードウェア側のスケジューリングが不要であり、構造が複雑になりやすいヘテロジニアス構成としては、構造が単純である。
では何が違うのか。それはそれぞれのコアが得意とする電力帯である。
Zen 4は高い電力帯で性能が出やすいように設計されている。ただし、性能を落としたとしても消費電力が下がりにくい。一方で、Zen 4cは低い電力帯で性能が出やすいように設計されている。ただし、電力を上げたとしても性能が比較的出にくい。
このため、コアに電力が集中するシングル処理時にはZen 4を集中して利用し、電力が分散するマルチ処理時にはZen 4とZen 4c両方を利用することで効率を高める。
そして、アイドル時にはZen 4を眠らせZen 4cだけで処理をする。これによって低負荷時の消費電力をおさえるのだ。
FPGAの強みどう活かす?Ryzen AI
AMDは今年年始発表のRyzen 7040シリーズの一部に、買収したXilinxのFPGAをベースとしたXDNAアーキテクチャを採用するRyzen AIを搭載している。Intelよりも早い登場であり、事実上、現時点で唯一WindowsのAI機能に触れるx86 CPUである。
問題があるとすれば、製品の展開が派手に行われていない点である。そもそもRyzen AIが導入されているのは一部のラインナップのみ。おそらくAMDは来年以降一気にラインナップを広げることが考えられる。
そして、Ryzen AIの良いところはFPGAであること。後から機能を追加できるのだ。この強みを今後どう活かせるか。これはAMD次第。個人的にはAMDが何らかの形でユーザーがこのFPGAをカスタムできる機能を提供したら面白いなと思っている。
性能底上げのQualcomm
続いて、Qualcommについて考える。
独自IPで劣等生から優等生へ
残念ながら、これまでQualcommは、電力効率面で優れていてもいくつかの要因からAppleどころかIntelやAMDに対応することができなかった。
まず、ひとつとしてあげられるのが、性能不足な点。AppleはArmの命令セット(ISA)をベースに独自のIPを開発している。対して、QualcommはCortexというArmのIPを使用してプロセッサを作ってきた。クロックを向上させたり、独自でコアの編成を組み替えたりするなどの差別化を図ることで性能を向上させることも可能ではあるものの限界がある。
そこで「Snapdragon X Elite」を投入した。Snapdragon X Eliteは、元々AppleでApple A12XなどのハイエンドSoCを開発していたエンジニアが独立したNuviaという企業をQualcommが買収し、この技術を用いて開発された新世代のCPUを備えるSoCである。先述の通り、これまでのQualcommはArmのCortexというIPを使ってCPUを開発していたが、今回はOryonという独自IPを使用した。
Oryonは非常に高い性能を誇っている。まず、シングルでは、IntelやAMD、Appleと並んだ。なんならモバイル向けラインナップでは、Raptor Lake・Phoenix・Apple M2ラインナップのほぼ全てを上回った。
ついでマルチ。今回、Snapdragon X Eliteはbig.LITTLEではなくOryonのみのホモ構成で12コアを実現した。これでもIntelやAMDに対しては消費電力で優位性がある。例えばRaptor LakeのCore i7-1360Pと比較すると、同じ消費電力で性能は2倍、より上位のグレードであるi7-13800Hでは同じ消費電力で性能は1.6倍と、Snapdragon X Eliteの高い電力効率をフル活用している。
一つ、考えられる欠点があるとするならば、big.LITTLEではないことと、ホモ構成12コアであることから、残念ながらAppleには電力効率面では劣ってしまっている様に見える。ただこれは、今回の記事の注目点「低負荷時の消費電力」には影響しない。低負荷時の消費電力はAppleといい勝負をするだろう。
やはりAIには強い
Qualcommは、今回取り上げる4社の中で、最も早くからプロセッサにAI機能を導入した企業である。そして、そのAI性能の高さも評判だ。
全世代8cx Gen 3で15TOPSだったAI性能は5倍の75TOPS(CPU+GPU++NPU)まで向上。これがどの精度なのか分からないが、Ryzen AIと比較すると倍以上、なんなら3倍程度の性能がある可能性がある。NPU単体でもIntel NPU(Keem Bay)の7倍以上の性能があるのだ。
QualcommはオンデバイスAIをキーワードとしており、その本気度がうかがえた。
プラットフォームを開拓できるかが鍵
依然として、Qualcommにはプラットフォームという問題点が残る。
AppleはそもそもMacというプラットフォームを自ら構築しているということもあり、基本的にAppleが向いた方向にプラットフォーム全体が動く。一方で、QualcommはOSを作っていない。Qualcommが思ったとおりにWindowsが動かないというのが問題点としてあげられる。これは決してMicrosoftが怠慢であったという訳では無いが、若干Microsoftの対応の遅れも目立った。例えば、Snapdragon向けのWindowsが最初に登場したのは2017年だ。それに対して、Windowsの花形とも呼べるOfficeがこれにネイティブ対応したのは2021年までずれ込む。なんとこれはApple Silicon向けOfficeよりも遅かった。
ただし、徐々に市場はArmに注目し初めている。AppleがApple Siliconで成功を収めた今、Qualcommがそれに追随できれば一気にプラットフォームの開拓が進む。Microsoftも鍵となる。Windowsのエミュレータに存在していた32bit制限も現在はすでになくなった。次はMicrosoftがどれほどArmへの誘致に力を入れれるかが重要である。Appleとは違い、x86系も並行するので、Qualcommは自社製品の優位性とシェアをどれだけ獲得できるか、そして、一つでも良いのでWindowsの特定の分野で圧倒的なシェアを獲得できれば未来は非常に明るい。
QualcommはChromebookで高いシェアを持っている。ChromebookはWebアプリケーションを専門としている上、Androidアプリケーションに対応しているなど、Snapdragonと相性が良い。このOSの特性上、CPUがx86であるかArmであるかは特段問題ではない。かつ、近年はWebアセンブリやHTML5の技術向上によって重量級のWebアプリも登場しているが、大半のWebアプリはそれなりのCPU性能があれば快適に動作する。この部分はArm/x86関係なく戦えるフィールドなので、ぜひのばしてもらいたい。
〆
と、ここまで来年のPCにトレンドを予想してみた。
消費電力が小さくなっていくことは、結果としてデバイスの軽量化とバッテリー駆動時間の向上につながり、ユーザーにとっても利点に働く。そして地球にも優しい。
そして、オンデバイスAIは、セキュリティ上でも、リアルタイム性が求められる場面でも今後より重要になっていくだろう。
2024年はこういった部分からラップトップではマイルストーンになる年になることが間違いない。ただ、一つ懸念するのは、円安やら戦争やらで価格が高騰しやすい要素もいっぱいあることかなぁ。