
さて、10月29~31日に「iMac」「Mac mini」「MacBook Pro」と連日発表されましたが、共通して「M4」シリーズのシリコンを搭載しています。特に今回「Apple M4」がMacに初めて搭載されたことと、新たに「Apple M4 Pro」と「M4 Max」が登場しました。今回はそれらの詳細を見ていきます。
春に公開したこの記事とタブルところもありますが、どっちかの記事にしか書いてないこともありますので良かったらぜひ
「Apple M4」の詳細な仕様と考察 - Nishiki-Hub
M4
M4は5月にiPad Proで先行して搭載されています。そのため基本的な仕様や性能というのは割と明らかになっています。
パッケージと製造
まず、パッケージとシリコンから見ていきましょう。パッケージは引き続きメモリを同梱する形となっています。また、IntelやAMDがマルチチップレットに向かう時代にAppleは引き続きモノリシックシリコンを採用しています。そして、そのシリコンは第2世代の3nmプロセスで製造されているとしています。これは、TSMC N3Eであると見られています。
そもそも、AppleはM3シリーズとA17 Proで採用したTSMC N3(N3B?)の歩留まりが好ましいものではなかったため、早急にN3Eに移行したという話もあります。その点で言えば新しくA17 Proを搭載してiPad miniという例外はあるものの、iPhone、Mac含め早々とA18/M4世代に移行したイメージですね。残すはMacBook Airのみです。そのiPad miniとMacBook Airも比較的早い段階でアップデートされるという予測も立っており、M4やA18以降に統一されるのも時間の問題でしょう。
と、M4は製造プロセス上の課題を解決するようなもののように紹介しましたが、実際この課題を解決するだけなら、M3を改良してN3Eにシュリンクする方法もあったはずです。特に、M3の登場からM4の登場まで半年程度しか期間があかなかったわけですから、だいぶ速いアップデートとなりました。これには様々な可能性が考えられますが、後述するAIも大きな要因となったはずです。
シリコンに搭載されるトランジスタ数はM4のみ280億基であると明らかにされています。M3が250億基であったことから30億基の増加。これはApple Siliconとしては平均的な増加数ではあるものの、規模的には小ぶりです。トランジスタ数はそのまま性能につながると言っても過言ではないので性能の向上は小ぶりかもしれません。その点で言えば、今回は性能重視のアップデートではないということになりますね。
CPU

では、実際にシリコンの内部について見ていきます。まずはCPUから。
CPUは、おそらくA17 Proの世代ではなくA18の世代となっています。
最大の特徴としてArmv9に対応しているということ。AppleはMediaTekやSnapdragon 8cx時代のQualcommとは異なり、ArmからISAのみを享受し自社でアーキテクチャを設計していました。そのため、CPU命令についてある程度の自由があります。
2021年にArmv9が発表されて以降もAppleは頑なにArmv8世代のISAを使い続けました。これは、Appleの意向に対してArmv9が十分ではなかったということが大きな要因であったことが予想されます。
おそらくそれはSIMD拡張。現代においてコンピューティングやグラフィックス、ゲームやオフィススイートなど様々なソフトウェアがCPUのSIMD拡張を採用しています。例としてx86系のCPUにはAVXやAMXがありますね。
ArmにもSVE(Scalable Vector Engine)やSME(Scalable Matrix Engine)といったSIMD拡張があります。Armv9では、日本のスパコン「富岳」に採用されたSVE 2が取り入れられており、SIMD性能が向上しているとArmは主張しています。
一方でAppleは独自のSIMD拡張としてApple Matrix Extention?(AMX)を採用する方向となり、引き続きArmv8世代の命令を採用し続けました。これは、Apple M1からM3まで続きます。その間、Armv9も徐々に改良が加えられていきますが、多少AMXの意向が取り入れられたようで、M4からはArmv9命令がサポートされたようです。
AppleはM4のCPUにおいて「次世代のML Accelerate」を搭載していると主張しましたが、これはおそらく新しいSMEやSVEに対応するためのアクセラレータのことを指しているのでしょう。これによってiPad Proでは主にAIワークロードやグラフィックスなどの一部のワークロードにおいて性能が改善した報告が上がっています。
そして、高効率コアの方には「より広く、より低遅延な浮動小数点ベクトル(Wider and lower-latency vector FP)」と記述されているため、SIMD用のレジスタも更新されていそうな感じです。
少なくとも、AIが叫ばれるこのタイミングで低精度に対応しているSMEやSVEに対応したのはおそらく吉でしょう。
それ以外を見ますと、高性能コア10-wideの命令デコーダを搭載していると記述されています。M3がどれくらいの命令デコーダを持っているのかは不明ではあるものの、増加しているのは確かでしょう。命令のスループット向上というのはCPUの性能・効率向上において欠かせない更新です。
また、分岐予測の改善も含まれており、投機実行の最適化が行われているものと推測できます。
この命令デコーダと分岐予測の改善というのは比較的順当なアップデートということはできますが、ただ、Armv9と組み合わさったことでより効率的な演算実行ができるのではないかと言うのが私の見解です。
ここまで長々とアーキテクチャの話をしてきましたが、次に構成の話をしていきます。
今回はM4シリーズを通してCPU構成に大きな変更が加えられました。
まず、M4はこのセグメントとして2018年以来のコアの増加。4P6Eの10コア構成となりました。
M4のセグメントはiPadのような面積や電力に対する制約がMacよりも厳しいデバイスにも搭載する関係上、CPUの規模をこれ以上増加させることは難しいと考えていましたが、微細化による密度の向上や、アーキテクチャの更新による効率化などもあって、高効率コアを2コア増やすというアップデートが行われています。
M4 Proは、10P4Eの14コア。M3 Proが効率重視の6P6Eの構成となったことを考えると、性能重視の構成に戻ったという考えることができます。果たしてM3 Proで効率重視の構成にして性能向上がほぼ0としたAppleの思惑は不明ですが、M4 Proでは大きな性能向上が見込まれます。
M4 Maxは、12P4Eの16コア。基本的にM3 Maxと構成としては変わりません。
CPUと後述するGPUの構成を含めた、展開されるM4のラインナップをまとめるとこんな感じ。
| CPUコア数 | 高性能コア | 高効率コア | GPU | |
|---|---|---|---|---|
| M4 | 8 | 4 | 4 | 8 |
| 9 | 3 | 6 | 10 | |
| 10 | 4 | 6 | 10 | |
| M4 Pro | 12 | 8 | 4 | 16 |
| 14 | 10 | 4 | 20 | |
| M4 Max | 14 | 10 | 4 | 32 |
| 16 | 12 | 4 | 40 |
普段と比べるとProとMaxのラインナップが少ないかな?


GPU

GPUについては、基本的にM3と同じものが採用されているようです。内部的には微細化が行われており、最適化やクロックの向上などが行われているはずなので、性能が向上しているはずですが大きなアップデートではないはずです。
といっても、M4デバイスにはM2からアップデートした製品もあるため、大きな更新であるとは言えます。
引き続き、レイトレーシングとメッシュシェーディングのハードウェアアクセラレーションが有効となっており、Metal 3にフル対応。ゲームやクリエイティビティにも有効であるとしています。
また、バイオハザード以外にも、WWDCで発表されたアサシンクリードシャドウズや、Cyberpunnk 2077などのAAAタイトルのMacへの対応も明らかにされており、これらに向けても最適化されていると考えられます。
Appleは、DirectX向けゲームをMacに移植することを支援するGame Porting Toolkit(GPTK)を提供しており、DirectX 12 Ultimateをフルサポートすることを目指してそうですね。
メモリ
メモリについては、M4とM4 Pro/M4 Maxで若干の違いがあります。
M3シリーズは、LPDDR5-6400メモリを搭載していましたが、M4シリーズは全体的にアップデートされています。
M4シリーズは統一してLPDDR5Xメモリを搭載しています。しかしM4とM4 Pro/M4 Maxでメモリクロックには違いがあり、M4はLPDDR5X-7500、M4 Pro/M4 MaxはLPDDR5X-8533となっています。
そして、メモリインターフェイスはM4は128-bit、M4 Proは256-bit、M4 Maxの下位モデルが384-bit、上位モデルが512-bitとなっています。
帯域は以下のとおりです。
| 帯域 | メモリバス | クロック | ラインナップ | |
|---|---|---|---|---|
| M4 | 120 GB/s | 128-bit | LPDDR5x-7500 | 8GB 16GB 24GB 32GB |
| M4 Pro | 273 GB/s | 256-bit | LPDDR5x-8533 | 24GB 48GB 64GB |
| M4 Max 下位 | 410 GB/s | 384-bit | LPDDR5x-8533 | 36GB |
| M4 Max 上位 | 546 GB/s | 512-bit | LPDDR5x-8533 | 48GB 64GB 128GB |
今回注目すべきは、Macのメモリの最低容量は、16GBと増加している点です。AIやグラフィックスなどMacでは大容量のメモリを要求する物も増えてきたこともあると見られます。
また、唯一残っている8GBラインナップはiPad Pro向けのバリアントですが、なぜか6GBを2スタックの12GBメモリを搭載しているにもかかわらず8GBとなっています。
パッケージ上のメモリの構成について、すでにiPad Proとともに発売されているM4はまだしも、M4 ProとM4 Maxはメモリの構成がわかりません。特にM4 Proが2スタックなのか3スタックなのかがわかりませんね。
M2 ProはM2 Maxに4スタック搭載されているのスタックを2スタック搭載していますが、M3 ProではM3のスタックを3基搭載していました。どうなるかがわかりませんね。
Neural Engine
Apple M4シリーズのNeural Engineは、38 TOPSの演算性能を提供しています。M3が18 TOPSの演算性能ですから、2倍強の性能向上となっています。
おそらく、M3のNeural Engineよりも低精度(int8?)の演算に対応し演算性能をたかめている可能性は高そうです。
特に、メモリの帯域が最大546 GB/sとなっているため、2,000億パラメータのような大規模モデルも動作できるようになるとしています。
メディアエンジン

メディアエンジンはH.264、HEVC(H.265)、ProRes、ProRes RAWのエンコードとデコード、そしてAV1のデコードに対応しています。個人的には、AV1のハードウェアエンコードに対応しなかったのは気になるところ。
M4 Maxでは、メディアエンジンとProResハードウェアアクセラレータが2基搭載されており、強化されています。
接続性
Apple M4はThunderbolt 4を引き続きサポートしていますが、M4 ProとM4 MaxはあらたにThunderbolt 5をサポートしています。
Thunderbolt 5は、USB4 Version 2のようにPAM-3信号を採用し、1レーンあたり40 Gbpsの帯域を有しており、最大120 Gbpsの非対称通信に対応しています。
Thunderbolt 5はこのシーズンになってようやく製品が登城しはじめたので、これまでのThunderbolt規格と同様に比較的早い段階でApple製品がサポートしたことになりました。
なお、USB4 Version 2についてはサポートしていません。
また、Wi-FI 6EとBluetooth 5.3を引き続きサポートしています。
ディスプレイ出力
ディスプレイ出力も強化されています。
M4では本体内蔵ディスプレイ含めて最大3台の出力に対応しています。また、最大6K60Hzを2台だせるというのも驚きです。
さらに、出力できるディスプレイの台数は減ってしまいますが、4K 240Hzや8K 60Hzも表示させることができます。
M4 ProとM4 MaxはM3 Pro、M3 Maxとディスプレイの仕様は変わりません。
M4 Maxは本体含め最大5台の映像出力に対応しています。
効率性
最後にシステム全体の効率性の話をしましょう。
MacBook Proを見ますと、バッテリー容量が変わらないにも関わらず、16インチモデルでは2時間も駆動時間が伸びました。これは効率が向上しているためです。
今回、CPU構成も見ますと、効率重視だったM3と比べると性能重視となっています。しかし、全体的に規模が大きくなったかと言われればそうではないので、おもに微細化と性能のバランスで効率が向上しているものと見られます。
もちろん、MacBook Proのバッテリー駆動時間が伸びたのはSoCだけでなくシステム全体の最適化もあるので一概にSoCが効率化したとは言い難いですが、それでも一定の効率化は果たされているようです。
M1以来最大
性能の向上は小ぶりであるものの、CPU命令セットの更新、Neural Engineの低精度サポートとみられる飛躍的な性能向上、Thunderbolt 5やLPDDR5xをはじめとした全体的な最新規格の採用など、大きなマイルストーンを達成したのも事実。
M1以降、確かにM3でハードウェアレイトレーシングなどの更新はあったものの、シリコン全体として大きな変更を加えられたことはなく小ぶりのアップデートが続いてきました。その点で言えば、最大のアップデートということができるでしょう。